[トップページ]]



(540) OPUS 5 / INTRODUCING OPUS 5

seamus blake(ts), alex sipiagin(tp,flh),
david kikoski(p), boris kozlov(b), donald edwards(ds)

2011/Criss Cross/


去年、シーマス・ブレイク(ts)が私の「ベスト3」入りしました。
そんなこともあってシーマスが参加する新しいグループも聴きたくなったんです。
アレックス・シピアギン(tp)、シーマス・ブレイク(ts)のフロント2管はモダン・ジャズの王道、
それにデヴィッド・キコスキ(p)、ボリス・コズロフ(b)、ドナルド・エドワーズ(ds)というメンバーです。
グローバルなメンバー構成になっています。
シピアギンとコズロフがロシア、シーマスがイギリス、キコスキとエドワーズがアメリカ出身かな。
もっともキコスキは名前からもロシア、東欧系だと思います。

全7曲はメンバーのオリジナルが4曲にジョージ・ケイブルス、トニーニョ・オルタ、ロシア民謡が新味です。
1曲目「THINK OF ME」にケイブルス(p)の曲があるように狙いは「ジャズ・メッセンジャーズ」のラインです。
変拍子を多用した典型的な現代風ハード・バップ・バンドが聴けました。
シピアギンのトランペットが輝きを放つ・・・やはりラッパがホーン楽器の華かと思わせる一瞬がある。
キコスキのピアノも切れ味があってこの二人がメーンの聴きどころになっています。
でもオルタの(4)「TONTO TOM」のボサノバになると俄然シーマスのテナー・サックスが生きてくるんです。
なぜかボサノバにはテナーが一番似合います。
このグループの良さはコズロフ作の(5)「NOSTALGIA IN TIME」で聴けました。
凄くカッコ良かった・・・このメンバーならこれくらいのジンジンする刺激があって当然です。
キコスキのフェンダー・ローズに乗ってトランペットが高らかに響き、テナー・サックスがうねります。

エドワーズの(6)「ASAMI'S PLAYLAND」はバラード、(7)「SOKOL」はフリー・フォームの展開もありました。

ところでどうだろう?・・・ 正直なところ、今一つ食い足りない部分が残ります。
デビュー盤なのでまだまだ手探り状態のところもあると思います
実質的なリーダーは誰なのか・・・何をやりたいのか・・・まだこの1枚だけでは分かりません。
もっといいはずと思うのは私だけではないでしょうね。
もう1枚聴いてみたいと思います。


(中間系)




(539) NANCY WILSON / BUT BEAUTIFUL

nancy wilson(vo),
hank jones(p), ron carter(b), grady tate(ds), gino bertachini(g)

2011(1969Rec)/Capitol/


ジャズ廉価版、999シリーズの1枚です。
ナンシー・ウィルソン(vo)のこのアルバムは発売時に話題になったのを覚えています。
ハンク・ジョーンズ(p)・カルテットがバックということもあったと思います。
なんとなく買いそびれていたので今回購入しました。
1969年録音はこのシリーズとしては比較的新しいですね。

スタンダード作品集なんだけどオリジナル盤から3曲が追加収録されています。
ボツになっていたのは「IN A SENTIMENTAL MOOD」、「EASY LIVING」、「DARN THAT DREAM」
という超有名曲ばかりです。
何でかな?・・・多分その時にはあまり知られていない曲を優先したということだと思います。
録音時間が短いLPに何を入れて何を外すかは大問題だったでしょうね。
出来にそれほど差がないとすれば担当プロデューサーか本人が選択するしかありません。
当然ながら苦渋の決断もあったと思います。

聴いてもらえば一目瞭然ですがどれも素晴らしいですよ。
ナンシー・ウィルソンは元々ポップな雰囲気を持っている人ですがそれが生かされています。
重いテーマのジャズ・スタンダードが聴きやすくさらりと耳に入ってきます。
寝る前やいっぱい飲みながら聴いても最高だと思うよ。
もちろん、ハンク・ジョーンズ・カルテットの洗練されたバッキングも見事なものです。
ギター入りも成功しました。
ちなみにハンク・ジョーンズ・カルテットはバックに徹していてソロ・スペースは一切ありません。
これがまたこのアルバムを昇華させた一因だと思います。

ナンシー・ウィルソンも今年で75歳になりますね。
何年か前にライブで見たことがあったけれどすでに椅子に座って歌っていました。
バックのピアノはたしかジョー・サンプルだったような気がするが・・・定かでない・・・。

(中間系)




(538) BEN WOLFE QUINTET / LIVE AT SMALLS

ben wolfe(b), luis perdomo(p), gregory hutchinson(ds),
marcus strickland(ts), ryan kisor(tp)

2011/Smalls Live/


ベーシスト、ベン・ウルフ・クインテットのライブ盤です。
ベンはハリー・コニック・Jr(p,vo)、ウィントン・マルサリス(tp)、ダイアナ・クラール(p,vo)等と共演しています。

今作はメンバーに惹かれたところがあります。
しばらく名前を見なかったライアン・カイザー(tp)とマーカス・ストリックランド(ts)のフロント2管。
ラテン系ピアニストのルイス・ペルドモに注目のグレゴリー・ハッチンソン(ds)が参加していました。

全9曲はベン・ウルフのオリジナルで全体的には一筋縄ではいかない曲が並んでいます。
作曲家、アレンジャー、コンポーザーとしての才能もあります。
(2)はどこかで聴いたことがある曲調だと思ったら「FOR THE GREAT SONNY CLARK」の題名でした。
ソニー・クラークは日本では「クール・ストラッティン」が大人気ですがアメリカではイマイチと聞いています。
こういうのが出てくると嬉しいですね。

やはりハジケ具合、ひねくれ具合で面白いのはストリックランドとハッチンソンでした。
予想外のソロを響かせるストリックランドにビシバシと煽りまくるハッチンソンは刺激的です。
1曲目の「BLOCK 11」から二人の魅力が全開しています。
この二人と比較的オーソドックスなスタイルのカイザーとペルドモの対比が面白いです。
間に入ったベンがどのようにまとめているのかが聴きどころになります。
(4)「CONTRAPTION」にはこのグループの色んな要素が入っていて10分超の一番の長丁場です。
(3)「TELESCOPE」、(5)「UNJUST」は親しみのあるテーマで聴き易いです。
(6)「I'LL KNOW YOU MORE」はストリックランドのワン・ホーンでただ1曲のバラード。
(8)「COLEMAN'S CAB」はベース・ソロから入るラテン調の曲でペルドモのピアノが生きます。

録音状態はかなり雑な感じ、特に主役のベース音が聴きにくいのが難点です。

ニューヨークの「SMALL」では毎夜このようなライブが繰り広げられているかと思うと興奮しますね。
この「Smalls Live」はコンテンポラリーなジャズ・ライブを聴くには見逃せないレーベルです。

(まじめ系)




(537) MELISSA ALDANA QUARTET / FREE FALL

melissa aldana(ts),
michael palma(p,elp), lyles west(b), ralph peterson jr(ds),

2010/inner circle music/


これも昨年のベスト3に登場したアルバムです。
メリッサ・アルダナ・・・女性テナー・サックス奏者の作品。
発売時に気になったんですが買いそびれていました。
インナー・サークルは鬼才グレッグ・オズビー(sax)主催のレーベルです。
メリッサの才能はオズビーも認めたということですね。

メリッサ・アルダナ(ts)は初見、チリ出身でまだ20代のようです。
彼女もまたバークレーを卒業していました。
収録曲は全て自身とメンバーのオリジナルでスタンダードは1曲もなしです。
デビュー作を全てオリジナルで占めるのは珍しいと思います。
女性としては重量級ながらオーソドックスでピュアなハード・バップ・ジャズが聴けました。
初リーダー・アルバムなのでその張り切りようがうかがえる内容です。
エネルギッシュで勢いがある・・・所々で気負いもあるけれど女性の特性もよく出ています。
テナーの音色はしなやかでやわらかく激しくても艶やかな響きがあります。
まったくストレスを感じさせないスムーズな展開は実力も十分とみました。
全体的にアップ・テンポで疾走感のあるプレイに魅力を感じました。
エレピの使い分けが巧みでサウンドに変化を持たせています。
エレピとの相性もいい・・・大らかで広がりのあるサウンドは一番ぴったりくるかもしれません。
バラードは(4)「TEARS THAT I CANNOT HIDE」と(7)「LACY THINGS」の2曲。

さらにメリッサもさることながらピアノのマイケル・パルマが中々いいですよ。
アコースティックとエレクトリック・ピアノを使い分けてモダンなアプローチを聴かせてくれました。
パルマもバークリー出身の27歳、コンテンポラリーな音楽性も持つ現代風のピアニストです。
メリッサとは同級生かもしれませんね。
もちろんラルフ・ピーターソン(ds)の存在感も気になりました。
押し出しが強く多弁でエキサイティングなドラミングにも注目です。
ビシッとアルバム全体を引き締めているのはさすがです。

粒ぞろいの曲が並んでいるので1枚を飽きずに聞き通すことができました。
それぞれに聴き応えがあるし、安心して聴いていられるところもいいです。
女性テナー奏者は少ないのでこれからの活躍を期待したいですね。

(まじめ系)




(536) GIGI GRYCE & DONALD BYRD QUINTET / JAZZ LAB

gigi gryce(as), donald byrd(tp),
hank jones(p), paul chambers(b), art taylor(ds)

2010(1957/Rec)/Jubilee/


ジャズ廉価版、999シリーズの1枚です。
ジジ・グライス(as)はリーダー作が少なくて過小評価されているジャズ・マンの一人だと思います。
この特徴あるジャケットは昔LPでよく見かけたことがあったので初CD化と聞いて驚いてしまいました。
今作はドナルド・バード(tp)&ジジ・グライス(as)のフロント2管、
ハンク・ジョーンズ(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds)という垂涎もののメンバーです。

ジジ・グライスが率いるジャズ・ラブの正式名称は「Jazz Laboratory」・・・ジャズ実験室というもの。
それにLOVEを引っ掛けて「Lab」・・・いかにも知的なグライスにはピッタリの命名です。
このジャズ・ラブはアレンジを重視していてクールで魅力的なサウンドを創り出しています。
演奏ではドナルド・バードやジジ・グライスの抑制されたクールな音色が聴きどころになります。
今聴いても十分に通用するし古さはあんまり感じません。
それほど好センスで洗練されたサウンドを聴くことができます。
このジャズ・ラブはピアニストに特徴があってここのハンク・ジョーンズの他、トミー・フラナガンや
初期にはデューク・ジョーダンなどが参加していました。

(1)でグライスの名曲「BLUE LIGHTS」が聴けること、バードの(7)「XTACY」も名演ですが、
さらにドナルド・バードとジジ・グライスのワン・ホーンが1曲づつ入っていて小憎らしいほどの演出です。
バードのワン・ホーンの(3)「ISN'T IT ROMANTIC」にも参ったけど
、(6)「IMAGINATION」に痺れました。
グライスのワン・ホーンで演奏されるこの曲には新たな発見がありました。
解釈と表現力が新鮮・・・頼りなく危なっかしい奏法と繊細な音色が絶妙な緊張感を生んでいます。
フランク・シナトラの歌で有名なんだけれどこんなにモダンで美しい曲だったとは・・・・。
ハンク・ジョーンズのピアノにも雰囲気あります。
この2曲のためだけに買っても惜しくないと思いますよ・・・999円は安過ぎる。


(中間系)

---------------------------------------------------------------------------

余談

こういうのを聴くとマイルス・デイビス(tp)の名盤「クールの誕生」の重要性がよく分かります。
ビ・バップの最盛期に吹き込まれたこの作品がいかに多くのジャズ・メンに影響を与えたのか。
ギル・エバンス(arr)やジェリー・マリガン(bs)、ジョン・ルイス(p)などのアレンジが素晴らしかった。
アドリブ一辺倒からサウンド重視に変わった瞬間です。
ジェリー・マリガンは西海岸でピアノレス・カルテット、ジョン・ルイスは室内音楽的なMJQを結成、
参加していたリー・コニッツ(as)はレニー・トリスターノ(p)派に走ることになります。
その後上記のジャズ・ラブやジョージ・ラッセル(arr)のジャズ・ワークショップに繋がっていくことになりました。
ちなみにマイルスはギル・エバンスと共に何枚もの名作を生み出すことになります。

この「Birth Of The Cool」は1950年録音も”売れっこない”との理由でお蔵入り。
世に出たのは6年後の1956年でした。
マイルスの「才能があれば黒人も白人も関係ない」というのは当時の黒人にしては斬新な発想らしい。
やっぱりマイルスは人よりも一歩も二歩も前を歩いていたということですね。



(535) NGUYEN LE QUARTET / SONG OF FREEDOM

nguyen le(g,comp),
lllya amar(vib,mar,ele), linley marthe(elb,vo), stephane galland(ds),
guest:youn sun nah(vo), dhafer youssef(vo), david linx(vo), ousman danedjo(vo),
julia sarr(vo),himiko paganotti(vo), david binney(as), chris speed(cl),
pradbhu edouard(vo),stephane edouard(per),karim ziad(per) a.o.

2011/ACT/


去年の「みんなのベスト3」に選ばれていた一枚で気になりました。
グエン・レ(g)は初見、ベトナム系フランス人とのことです。
ジャケットはいかにもコンテンポラリーな感じがしますね。
全15曲はビートルズ、スティービー・ワンダー、レッド・ツェッペリン、ジャニス・ジョプリン、
クリーム、ボブ・マーリーなどのヒット曲のカバーと4曲のオリジナルです。
オリジナルといっても幕間的、全て1分弱で次の曲への前奏になっています。

いきなりの「エリナー・リグビー」に驚きましたが出てきたサウンドはユニークでした。
グエン・レは演奏テクニックはもちろんのこと、アレンジャーやコンダクターとしての才能も感じます。
楽器編成が巧みな上にエレクトリック・サウンドとの融合が新鮮でした。
どこまでも音が広がっていく感じでこの表現力が素晴らしい。
ベトナム系ということでいかにもオリエンタルな雰囲気に溢れています。
欧米のポップスやロック、ソウルやレゲエといったところを自分の感性で料理しています。
色んな要素が詰まっていていかにもワールド・ワイドな作品です。
このグループは各地のジャズ・フェスティバルに引っ張りダコになるんじゃないかな。

この心地良さは何でしょうね。
サウンドは新しいけどリズムがしっくりくるのは同じアジアの血が流れているからかもしれません。
歌がまた何ともアジア的で馴染んできます。
個人的にはボブ・マーリーの(11)「REDEMPTION SONG」に参った。
これってレゲエなんだけどね・・・美しくロマンティックに響いて心に沁みました。
スティービー・ワンダーの(2)「I WISH」もカッコ良かったです。

頭がぐちゃぐちゃになってあとでスッキリするのはフリー・ジャズを聴いているのと同じ感覚がします。
オリジナルとはサウンドやリズムがまったく違うので別の曲のように聴こえてきます。
最初は異質な感じがするけど聴いているうちにハマってきますよ。
元気が出る・・・いやぁ〜、これは面白かったです。

(くつろぎ系)




(534) FRANCESCO CAFISO QUARTET / 4 OUT

francesco cafiso(as,fl,ss),
dino rubino(p), paolino dalla porta(b), stefano bagnoli(ds)

2010/ABEAT Records/


アッと驚く為五郎・・・恐れ入谷の鬼子母神です。
大きな勘違いをしていました。
私は気が付くのが遅いです。
改めて先入観念は良くないと実感しました。

昨年のベスト3にフランチェスコ・カフィーソ(as)の名前がありました。
で、一気に興味が湧いてきたんです。
デビュー時には天才の誉れが高く、日本のVレーベルから何枚か出ているのも知っていました。
でも、まだ10代ではただ上手いだけなんだろうとたかをくくっていたのも事実です。
私は天才といわれるだけで引いてしまうところもあります。
ミシェル・ペトルチアーニ(p)以来、真の天才に出合ったことがないから・・・。
そんなこともあってカフィーソを聴いたのは初めてです・・・ユーチューブを見たこともないし。

ベスト3のアルバムを買おうと思ったら3000円以上のお値段、えらく高いんですね。
ユーロ安や円高はどこに行ったと思いましたよ。
それならばと選んだのが2010年に発売されたこのカルテットです。
正直、驚きました・・・文句なしの本物・・・カフィーソは正真正銘の天才だったかもしれません。
ここに収録されている全てが素晴らしかった。
これだけ完成度の高いアルバムは珍しいと思います。

今作は全7曲、スタンダード4曲とオリジナル3曲の構成でバランスがいいです。
各人のソロ・スペースも十分で現在のカフィーソの音楽性やスタイルを聴くことができました。
まずは(1)「EVERYTHING I LOVE」で力強く鋭角的なアルトの音色が飛び出してきました。
圧倒的な迫力のある音色・・・一発一瞬で心を鷲づかみされた感じです。
続く切れ味鋭いピアノ・ソロやベース・ソロも素晴らしかった。
実際、どのトラックも聴きどころが多くて目移りしてしまうほどです。
オリジナルも多彩な音楽性を持っているので作曲家としての才能も感じます。
ベスト・トラックはオリジナルの(3)「KING ARTHUR」でしょうね。
ここでのカフィーソのソロ・アルト・プレイがもの凄い、
アタックの強さ、表現力の多様さにたまげてしまいました。
驚異的なインプロビゼーションに鳥肌が立ちましたよ。
ピアノ・トリオが入ってくると益々その勢いが増してきます。
バックも強烈な反応を示していてこれはもう素晴らしい演奏が聴けました。
実は10分強のこの曲が一番長いですがカフィーソのソロがあまりに凄いので
あとのメンバーのソロがかすんでしまった感が強いです。
同じくオリジナルの(2)「ENIGMATIC NIGHT」でのバラード・プレイもまたいいんだな。
見事な抑揚感でとても20歳ソコソコとは思えない落ち着きです。
溢れ出る情感とよどみないフレーズ・・・やっぱりこの人の才能は尋常ではなかった。
(4)「HOW ABOUT YOU」はベースのダウリノ・パラ・ポルタやピアノのディノ・ルビノに焦点が当たります。
ここではルビノのピアノが聴きどころになりました。
(7)「JUST IN TIME」もまた強烈な印象を残しました。
原曲の面影はほとんどなしで全身全力で疾走します。
カフィーソの自由奔放なアルト、大胆不敵なルビノのピアノ、強靭なポルタのベース・プレイ、
常に多弁で強力なリズムを押し出すステファノ・バグノリも素晴らしいです。
何しろこのカルテットには参った。
一味どころか、二味、三味も違う・・・実に魅力的なグループです。

これからカフィーソはどうなっていくのか?・・・大きな可能性を秘めていると思います。
最近はあまりショックを受けるプレイヤーは少なくなりました。
久々に過去にさかのぼって聴きたくなったプレイヤーが現れました。
「10で神童,15で天才,20過ぎたらただの人」じゃないみたいです。

リー・コニッツ(as)が衰えたと思ったら次世代にカフィーソが出て来たのは不思議な因縁を感じます。
なにしろ音に力があるし、アタックの強さが尋常ではありません。
現状に満足せず・・・今後は間違いなくフリーにも足を踏み込んでいくと思います。
というか、そうなって欲しいです。
真にコニッツの後継者になれるかどうかはそれにかかっているんじゃないかな。

(まじめ系)




(533) ONAJE ALLAN GUMBS TRIO & QUINTET / JUST LIKE YESTERDAY

onaje allan gumbs(p), victor bailey(b), omar hakim(ds),
spaceman patterson(g), chuggy carter(per), marcus mclaurine(b)

2010/Cheetah/


気になっていたオナージェ・アラン・ガムス(p)・トリオを聴きました。
去年の「みんなのベスト3」に選ばれた一枚です。

フュージョンが全盛だったはもう40年も前になるかな。
当時、幼なじみが新宿のジャズ喫茶を任されていました。
その彼がこういう傾向が好きだったのでずい分と聴かせてもらったものです。
私の年でクロスオーバーやフュージョンを聴いていたジャズ・ファンは少ないんじゃないかな。
フュージョンはコマーシャリズム、軟弱のイメージが強かったから・・・。
まぁね、どんな音楽をどう聴こうが個人の自由ですよ。
一日でゴリゴリのフリー・ジャズとメロメロのフュージョンを聴くことだって稀ではなかった。

さて、若い頃に馴染んだ音楽や景色はいつでも心地良いということがもう刷り込まれています。
フェンダー・ローズ、エレクトリック・ピアノの響きは本当に懐かしい思いがしました。
題名がまた「Just Like Yesteday」・・・「まるで昨日のように」なんて憎いじゃありませんか。
たしかにこのアルバムには1970年頃のムードが溢れています。
現在のスムース・ジャズとは明らかに違う趣がありました。
ビクター・ベイリーのエレキ・ベースとオマー・ハキムのセクシーなドラムスもいいです。
8ビートや16ビートを得意にするジャズメンはまた一味違う感性を持っています。
ジャズとフュージョンのはざ間にいるミュージシャンは目立たないけど実力者も多いです。
選曲も良く考えられていて、ボビー・コールドウェル、スタイリステックス、スティービー・ワンダー、
マービン・ゲイ、アース・ウィンド・アンド・ファイヤーといったところのソウルなヒット曲と
サド・ジョーンズ(tp)、ホレス・シルバー(p)、ハービー・ハンコック(p)の有名ジャズ曲が並んでいます。
フュージョン・サウンドには欠かせないギターやパーカッションを配して万全の出来です。

プロデューサーはアメリカ在住のジャズ・ベーシストの中村照夫さんです。
中村さんは自己のレーベル、「Cheetah」を立ち上げたようですね。
すでにボブ・ミンツァー(sax)、トム・ブラウン(tp)といったところをリリースしているらしい。
どんな傾向のレーベルになっていくのか楽しみです。

ちなみにここで使われているフェンダー・ローズは中村さんがオナージェさんに売ったものだそうです。
そんなところでも繋がっているんですね。

(くつろぎ系)




(532) DAVID BUDWAY SOLO & TRIO & QUARTET & QUINTET & SEXTET
/ A NEW KISS

david budway(p), eric revis(b), jeff"tain"watts(ds),
branford marsalis(ss)(02), marcus strickland(ss)(01,10,11),
ron affif(g),(10,11), joe"sonny"barbato(accrdian)(11)

2011/Max jazz/


今作も去年の年末に買い置きしていた1枚で新年になってから封を切りました。
CDショップで蛸唐草紋様のネクタイに惹かれた。
デヴィッド・バドウェイ(p)は初見ですが共演者が面白そうです。
ジェフ・ワッツ(ds)、ブランフォード・マルサリス(sax)やマーカス・ストリックランド(sax)の名前がありました。

聴いてみると独特のリズム感の持ち主でオヤッと思いました。
この感覚は何だろうか?と聴きながら考えていましたがその答が最後にありました。
(11)「SAMA'I SHAT ARABUD」はアラビア音楽そのものでした。
こういう曲は新鮮なんでしょうね・・・踊りたくなる・・・みんな楽しそうに演奏しています。
改めて解説を読んでみるとお父さんがアラビアのバイオリン弾きだったようです。

演目はオリジナル7曲、スタンダード4曲の構成です。
1曲目は日本の印象を書いたもの・・・よほど日本のブランチが気に入ったようですね。
それでネクタイも蛸唐草なのかな。
バドウェイは実力も相当なものだと思います。
ブランフォードもマーカスはソプラノで参加・・・二人はあくまでゲストでバドウェイは自分の主張を貫いています。
名前でも実力でも負けていません。
面白かったのは(6)「ROUND MIDNIGHT」と(8)「YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO」の2曲。
この大スタンダードはソロ・ピアノで演奏されましたがいかにもラウンジ風だったのが面白かったです。
あちこちで弾き語りの仕事をしていたのは想像にかたくありません。

ジェフ・ワッツとのコンビネーションは抜群で(7)「MAINTAIN SPEED THROUGH TUNNEL」で聴けます。
表題曲の(9)「A NEW KISS」はいかにも今風のピアノ・トリオの疾走感で飛ばします。
このアルバムには色んな料理が並んでいました・・・多彩な曲想で飽きさせません。
バドウェイは幅広い音楽性を持つコンテンポラリーなピアニストで楽しめました。

(中間系)




(531) SEAMUS BLAKE QUINTET / LIVE AT SMALLS

seamus blake(ts),
lage lund(g), david kikoski(p), matt clohesy(b), bill stewart(ds)

2010/Smallslive/


シーマス・ブレイク(ts)のライブ盤は評判がいいので入手しました。
噂どおり、これもホントにいいです。
ここにきて好盤が飛び込んできたので「ベスト3」はまた迷っています。
演目はオリジナル4曲にスタンダードが1曲です。
バックにピアノとギターの二つのコード楽器を使うのは現在の流行です。
サウンドが分厚くなってギターとのユニゾンがより効果的に響きます。

まずは(4)「STRANGER IN PARADISE」の一発に参りました。
これはカルテット演奏なんだけどディープで繊細な表現力は感動的です。
デヴィッド・キコスキ(p)もロマンティックで美しく、素晴らしいです。
ニューヨークの先進サウンドを聴かせるオリジナルの出来も文句なしです。
シーマスは思い切りのいいプレイで吹き切っているし完全に一皮むけました。
メンバーも好演、特にラーゲ・ルンドのギターにも痺れた。
今まではいまひとつ物足りなかったけれど初めて突き抜けたシーマスの姿を見ました。

5月に見たシーマスのライブではキコスキとマット・クローシー(b)が一緒でした。
全体的に未消化のライブでしたがこの時はいったい何だったんだろうかと思います。
ここではまるで別人のようです。

今作で新しい発見をしたのが嬉しかったです。
マイケル・ブレッカー(ts)〜ボブ・バーグ(ts)のラインの後継者は誰か?というテーマがある。
正直、ビル・エバンス(ts)では少々弱いと思っていました。
ところがこのアルバムを聴いてピンときたんです。
「シーマス・ブレイクがきた〜!!」と思いました。
ブレッカー〜バーグ〜シーマスの流れが出来たような気がします。
これはけっこう重要な出来事です。

(中間系)




(530) PAT METHENY / WHAT'S IT ALL ABOUT

pat metheny(g)

2011/Nonesuch/


思うにパット・メセニー(g)の登場も印象的でした。
ドイツのECMレーベルからのデビュー・・・それで最初はヨーロッパの人かと思ったんです。
もう30年以上も前のことですがあまりに鮮やかなのでこれがジャズかなと思いました。
誰にも似ていない、今までにない新しいタイプのギタリストが現れたという気がしました。
メセニーのギターは一人オーケストラ
今でも誰にも真似できない独特の感性を持つ孤高のギタリストだと思っています。

メセニーとの出会いは当時足繁く通っていたジャズ喫茶のマスターとの会話がキッカケです。
私:「だれか、最近いい人いますか?」
マスター:「パット・メセニーがいいよ」
私:「え〜、そうなの・・・他には?」
マスター:「ビリー・コブハム(ds)もいいねぇ〜」
もうかなりの年だったのに・・・先進のプレイヤーの名前が出てきた・・・驚いたのを思い出した。

さて、今作はソロ・ギターです。
オリジナルは1曲もなしのメセニーにしては異色のアルバムといえるでしょうね。
選曲はメセニーの若い頃、周りにはこういう曲があったということだと思います。
自分が好きな曲を好きなように弾いてみたというアルバムです。
原曲のイメージが狂うものもあるけれど俺ならこう弾くというメセニーの世界が広がっている。
いかにも私的なアルバムという感じがするので秘蔵盤という言い方がぴったりくるかもしれません。
近い年齢の人ならそれぞれに思い入れのある曲があると思います。
当時の出来事や思い出に重なるんじゃないかな。
私にも何曲かありました・・・不覚にも(3)「ALFIE」には涙が出そうになった。
好きだった(10)「AND I LOVE HER」も沁みた。
ソフトであたたかいアコースティックの調べは心にそっと寄り添ってくるような感じがする。
ちなみに音量はやや小さめがいいと思うよ。

(くつろぎ系)




(529) ALDO ROMANO QUARTET / INNER SMILE

aldo romano(ds),
enrico rava(tp), baptiste trotignon(p), thomas bramerie(b)

2011/Dreyfus/


アルド・ロマノ(ds)の新作・・・年輪を重ねたジャズ・マンの顔ジャケに惹かれました。
裏側を見るとエンリコ・ラヴァ(tp)、バティスト・トロティニョン(p)、トーマス・ブラメリー(b)の名前。
曲名には4曲のスタンダードが含まれていました。
これはもう悪かろうはずがないと即買いを決めました。
以前なら買ったらすぐ聴くのが当たり前でしたが今ではしばらく放って置いても平気になった。
それで今作が今年の初聴きになりました。

アルド・ロマノはフランス、エンリコ・ラヴァはイタリアで共に70歳を超える大ベテランの大御所です。
二人共にフリー、前衛の洗礼を受けた猛者で硬派のジャズメンといえます。
年齢的にもそろそろ聴いておかないといけないと思った。
それにフランスのもう中堅どころと言っていいバティスト・トロティニョンとトーマス・ブラメリーの組み合わせです。
さてどういうことになるのか、興味津々でした。

まずはスタンダードの4曲から・・・。
(2)「MORE」は美しく、(11)「I'M GETTING SENTIMENTAL OVER YOU」は軽快な展開です。
(5)「OLD DEVIL MOON」はピアノレスのトリオで演奏されますが3者の絡みが刺激的です。
(8)「MY FUNNY VALENTINE」は8分強の一番の長丁場ですが原曲のイメージはほとんどなし。
ここいらへんが一筋縄ではいかないロマノ&ラヴァの真骨頂だと思います。

オリジナルは平均3〜4分でいずれも小品、フリー・フォームに片足を突っ込んでいる感じかな。
特にこれといった特徴もないので時間的にもちょうど良かったです。
面白かったのはメンバー全員がクレジットされている(3)「KIND OF AUTUMN」でのフリー・インプロビゼーション。
全体的にラヴァのラッパのコントロールが素晴らしい、温かくまろやかで繊細、さすがという他はありません。
(9)「WHERE IS ALDO ?」バティスト・トロティニョンのピアノ・ソロで興味を惹かれました。
実はトロティニョンのリーダー作はまだ持ってないんです。
デビュー時の触れ込みはたしかミシェル・ペトルチアーニ2世とか言われていたような・・・。
試聴した時に「どこがペト2なんだぁ〜・・・」と思ってもうそれっきりになっています。
あれからほぼ10年、変わるのが当たり前ですね・・・今ならまぁ許せるか。
トロティニョンのピアノには持って生まれた優しさや柔らかさがあるように思います。
今後フリーへの道を歩んでもこれが個性になるんじゃないかな。

今年も絶好調のスタートです。


(中間系)




(528) LEE KONITZ. BRAD MEHLDAU. CHALIE HADEN. PAUL MOTIAN.
/ LIVE AT BIRDLAND

lee konitz(as), brad mehldau(p), charlie haden(b), paul motian(ds)

2011/ECM/


このアルバムを今年の「みんなのベスト3」に見た時、
「あ〜、まずい、まだ聴いていなかった」と思いました。
見逃しているのが恥ずかしくなったし、個人的に聴かなきゃいけないアルバムだと思いました。
「聴かなきゃいけないアルバム」なんてめったにあるもんじゃありませんよ。
それほどこの作品には深い意味が込められているんです。

これはほとんど奇跡的、歴史的なアルバムだと思います。
まずはECMのプロデューサーのマンフレート・アイヒャー氏の着眼点に敬意を表します。
この組み合わせはジャズ・ピアノ界の大きな流れを表しているのではないか。
ジャズ・ピアニストの流れの一つにレニー・トリスターノ〜ビル・エバンス〜
キース・ジャレット〜(ミシェル・ペトルチアーニ)〜ブラッド・メルドーがありますね。
つまりこれを具現化したアルバムだと思うのです。
レニー・トリスターノ派の重鎮リー・コニッツ(as)とビル・エバンス&キース・ジャレット・トリオのポール・モチアン(ds)、
同じくキース・ジャレット・トリオのチャーリー・ヘイデン(b)に新世代新感覚のブラッド・メルドー(p)を組み合わせる。
加えてヘイデン、コニッツ、モチアンにはフリーの流れ(オーネット・コールマン、ジョン・コルトレーン)もあります。
まさに夢のような組み合わせで実現できるのはアイヒャー氏だけだったかもしれません。
兎にも角にもリー・コニッツが元気でいたことが大きいです。
今年、ポール・モチアンさんが亡くなりました・・・もうこの組み合わせはあり得ない。
ジャズの黄金時代を飾った人が少しづつ消えていく現在、よくぞこのライブ録音を世に出してくれました。

聴いてみると凄く良かった。
コニッツもこれだけ吹ければもう十分・・・ちょうどいい案配のゆるみ加減です。
みんながリラックスしていて気持良さそう・・・実に居心地のいい空間が広がっています。
本来あるべき緊張感があまり感じられず、むしろ各人の思いやりというか、やさしい雰囲気が漂っていました。
コニッツやモチアン、ヘイデンは息子を見守る感じ、メルドーには畏敬の精神が溢れています。
「おい、あとは頼むよ」〜「分かった、大丈夫」・・・お互いに伝え合うものがあったと思います。
・・・時は流れる・・・ジャズは世代を超えて繋がっていく・・・
私も色々と思うところがあってホロリとしそうになりました。
いずれは涙なくしては聴けないアルバムになるかもしれませんね。

孤高の怪物リー・コニッツも85歳になりました。
あと残るチャーリー・パーカー直系の大物アルト奏者はルー・ドナルドソン(85歳)だけかな。
その次に続くのはフィル・ウッズの80歳です。

(中間系)




(527) MIKE CUOZZU / WITH THE COSTA-BURKE TRIO

mike cuozzo(ts),
eddie costa(p), vinnie burke(b), nick stabulas(ds)

2011(1956/Rec)/Jubilee/


マイク・コゾー(ts)&エディ・コスタ(p)・トリオ。
先日、宮野裕司・カルテットを見に行った時にジャズ・バーの店主のMさんが聴かせてくれました。
ほとんど知られていない珍しいプレイヤーだしエディ・コスタとの共演盤ということで購入しました。
早世したコスタと共に貴重なアルバムになっています。

リー・コニッツ(as)やレスター・ヤング(ts)系のクール・サウンドで
エディ・コスタ&ヴィニー・バーク・トリオと共に独特の雰囲気があります。
マイク・コゾーについてはほとんど情報がないですね。
なんでジャズ・シーンから消えてしまったのかも定かではありません。

エディ・コスタは独自の感性を持ったピアニストでヴァイブ奏者としても知られています。
才能豊かで、「さぁ〜、これから」という時に交通事故で亡くなってしまいました。
まだ31歳だったんですよ・・・そういう意味でもコスタ参加のアルバムはどれも貴重といえます。
ヴィニー・バークはそのコスタと共に行動したベーシストです。
よく知られているのはギタリストのタル・ファーローとの共演盤かな。
「Tal」や「Swinging Guitar of Tal Farlow」で聴くことができます。

実に趣味のいいアルバムなので秋の夜長のBGMには最適です。
こんなのをひっそりと聴いていた人がいたんですね。
「参ったなぁ〜」

ちなみにこれをキッカケに「ジャズ名盤999シリーズ」を詳しく見てしまいました。
この他に↓の3枚が入手済みです。
*ロイ・エアーズ/ウエスト・コースト・ヴァイブス
*ランディ・ウェストン/5スポットのランディ・ウェストン
*サル・サルヴァドール/ミュージック・トゥ・ストップ・スモーキング・バイ

(くつろぎ系)




(526) PAT MARTINO QUARTET / UNDENIABLE
LIVE AT BLUES ALLEY

pat martino(g),
eric alexander(ts), tony monaco(org), jeff"tain"watts(ds)

2011/HighNote)/


パット・マルティーノの新譜はジャズ仲間の評判も上々のようです。
マルティーノはある意味、最も人気のあるギタリストかもしれませんね。
現在67歳、デビューは60年代の初めで20歳そこそこでした。
リアル・タイムで進行するハード・バップの洗礼を受けた最後の年代です。
当時の面影を残した熱いプレイを聴けるのはマルティーノだけかも。
同年代のジョージ・ベンソン(g,vo)は純ジャズ路線から離れてしまいました。
80歳にして現役のジム・ホールは別格だけどこちらはクールが持ち味です。

マルティーノは若い頃、ギターのジョン・コルトレーン(ts)といわれていました。
コルトレーンと同様にインドや中近東の複合リズムに傾倒していたからです。
当時は一風変わったギタリストでした。
30代後半に病魔に倒れますが40代で見事に復活してきました。
それからのマルティーノは吹っ切れたように思い切りのいいプレイを展開しています。
後輩のギタリストに与えた影響も大きいでしょうね。
今作でもスイング感溢れるファンキーなギター・プレイを聴かせてくれています。
これだけ魅力的なファンキー・ギターを弾ける人はそういないんじゃないかな。

共演のエリック・アレキサンダーも文句なしです。
エリックはコルトレーンを最もモダンな形で聴かせてくれるテナー奏者です。
よどみないフレージングと艶のある音色は魅力十分。
私はちょっと前ならクリス・チーク、クリス・ポッター、マーク・ターナー辺りを注目していましたが
今またエリック・アレキサンダーやハリー・アレンをよく聴いています。

全7曲は1曲を除いてマルティーノのオリジナルです。
1曲目の「LEAN YEARS」は幕開けにふさわしくスリル満点、このノリはもうたまりませんよ。
これで一気に引き付けられてしまいました。
3曲目「GOIN' TO A MEETING」は観客の盛り上がりも最高潮です。
ファンキー・サウンドは「これでもか」という同じフレーズの繰り返しに熱く燃えます。
ブルージーな(5)「MIDNIGHT SPECIALl」ではオルガンのトニー・モナコがフューチュアーされました。
(6)「'ROUND MIDNIGHT」はバラード・・・マルティーノのバラードはいまひとつだと思います。
未だに枯れていない証拠かもしれませんね。
プレイが若々しいです。

ファンキー&グルービーなサウンドならオルガン・トリオが一番でしょう。
オルガン・トリオが醸し出す雰囲気はもう最高!!
自然に身体が揺れてくるんです。
パット・マルティーノとエリック・アレキダンダーには色気があります。
二人のユニゾンには痺れました。
ビシバシとワイルドなドラミングを聴かせるジェフ・ワッツが引き締め、
トニー・モナコのオルガンが全体のムードをぐっと高めています。
このアルバムは良かった。

(中間系)




(525) MASAHIRO FUJIOKA QUARTET / MINDSCAPE

藤陵雅裕(as,ss)
福田重男(p)、高瀬裕(b)、安藤正則(ds)

2008/Phoca Music/


最近はライブ・ハウスでCDを購入することも多いです。
タイミングが合えばサインをもらうことにしています。

藤陵雅裕(as,ss)さんの持つ明るくて爽やかな音楽性を満喫することが出来ました。
マービン・ゲイやスティービー・ワンダー、ビートルズの曲が入っていて、
オリジナルやスタンダードとの構成がとてもいいです。
1曲目にバラードがくるというのは珍しいかな。
普通はテンポが良くてリスナーが入りやすい曲を配置するパターンが多いと思います。
それだけ思い入れの深い曲ということでしょうね・・・印象的な美しい曲想を持っています。
ゲイの(2)「WHAT'S GOING ON」やスティービーの(10)「TOO HIGH」のアレンジがまた面白いです。
その他にも(6)「SMILE」や(7)「NORWEGIAN WOOD」など、オリジナルを含めて
聴きどころがいっぱいでグッと引きつけられてしまいました。
アルト・サックスとソプラノ・サックスの持ち替えということで目先も変わるし飽きさせません。

艶やかな音色とよどみないフレーズ・・・つくづく藤陵さんは名手だと思います。

福田重男さんの美しく、メロディアスなタッチとスイング感溢れるピアノ、
安藤正則さんの疾走感のあるドラムス、高瀬裕さんの堅実で安定感のあるベース、
メンバーのバランスも良く聴き味のいいアルバムでした。

(くつろぎ系)




(524) KOJI GOTO TRIO (THE EROS) / QUIET THRILL

後藤浩二(p)、岡田勉(b)、江藤良人(ds)

2009/KuKu/


後藤浩二(p)さんが中心の「The Eros」のアルバム・・・今作もライブ・ハウスで購入しました。
構成を見てみると面白いですね。
メンバーの岡田さんと江藤さんが2曲づつオリジナルを提供していますが後藤さんはなしです。
最初はビートルズから入って最後はミシェル・ペトルチアーニ(p)で〆ています。
これで後藤さんはビートルズ世代でペトが好きだということが伝わってきました。

聴いてもらえばすぐに分かりますが後藤さんには独特の世界があります。
それぞれの演奏には必ず起承転結の物語り性があるんです。
加えて根底にはユッタリとしたスイング感があってとても心地いいんです。
聴いているとまるで揺りかごに乗っているような気がしますよ。
全体的にはバラードからミディアム・テンポで演奏されています。
(6)「MY ONE AND ONLY LOVE」の美しくも深遠な世界にはもう参った。
ライブとは思えないほど完成度が高く後藤さんの実力の証しです。

(5)「WORDS AND MOOD」はテーマがトリッキーで面白く異色な展開になっています。
3人の思い切ったプレイとワイルドな部分を聴くことができました。


ライブ音源には粗さもあるけれどライブでこそ真価が発揮されるトリオだと思います。
機会があったら是非ライブ・ハウスに足を運んでみて下さいね。

(中間系)



(523) AYUMI KOKETSU QUARTET / DAYBREAK

纐纈歩美(as)
納谷嘉彦(p)、俵山昌行(b)、マーク・テイラー(ds)

2011/M&I/


先日のライブ会場で入手しました。
一聴した途端にその音色に惹かれると思います。
繊細でひ弱で危なっかしい感じがするけれど、なんだかジワ〜っと心に沁みるんです。
この感覚はいったい何だろうね?
やさしくまろやかで癒し系・・・でもなんか支えてあげたい気持になりました。
そういえば最近、似たような音色を聴いたことがあったなぁ〜。
「Benjamin Drazen(as)/Inner Flights」(2011/Posi-Tone)
レニー・トリスターノ(p)派の超クール・サウンドとポール・デスモンド(as)の音色のミックス・タイプか。
近年、こういう奏法が流行っているのかもしれません。

選曲もよく考えられていて面白いです。
オリジナル2曲、スタンダード3曲、ジャズ作品5曲に日本のポップスが1曲です。
ジャズ作品はリー・コニッツ(as)、ポール・デスモンド(as)、セロニアス・モンク(p)、
ジョージ・ラッセル(p,arr,com)、ソニー・ロリンズ(ts)が選ばれました。
ここで注目されるのはコニッツの(2)「SUBCONSCIOUS LEE
ラッセルの(10)「EZZ-THETIC」でしょうね。
とても20代前半(23歳)の女性が選ぶとは思えないのでこれだけでも勇気があります。
モンクの(6)「EVIDENCE」を含めていずれも一筋縄ではいかない難曲です。
纐纈さんの意欲とこだわりの表れか・・・若者らしく挑戦する姿勢が素晴らしい。
大ヒット曲の(5)「ハナミズキ」は特に女性に人気のある曲です。
纐纈さんもカラオケなどで歌っているんではないかな。
このしっとりとした表現力も聴きどころになりました。

バックのトリオも実に落ち着いたプレイ振りで好感が持てました。
特に納谷嘉彦(p)さんの絶妙なバッキングが光ります。

(くつろぎ系)




(522) MASAHIRO TAJIKA QUINTET / TAHJI

田鹿雅裕(ds)
多田誠司(as)、岡崎好朗(tp)、川上さとみ(p)、高道晴久(b)

2011/Forecast/


田鹿雅裕(ds)さんともライブ・ハウスで時々出会います。
日本のルイス・ナッシュ(ds)と比喩される好センスのドラマーです。
そんな田鹿さんの初リーダー・アルバムが今作です。
ベテランの初リーダー作には「え〜、そうだったの?」って驚かされることも多い。
それだけに満を持しての力作になる可能性が高くなります。
自分のことがよく分かっているから自然体というか、安心して聴くことができますね。

作品からはビ・バップの精神がビリビリと伝わってきました。
それは選曲からも明らかです。
オリジナルが4曲、スタンダードが1曲(4)で、あとはジャズ・メンの作品です。
シダー・ウォルトン(p)、サド・ジョーンズ(tp)、ハンク・モブレイ(ts)、デクスター・ゴードン(ts)、
ジョー・ヘンダーソン(ts)、ベニー・カーター(as)、特にトム・マッキントッシュ(as)は珍しいです。

この心地良いスイング感はもうたまりませんよ。
田鹿さんのこだわりのブラッシュ・ワークは抜群の上手さを誇ります。
(2)「THE CUPBEARERS」、(5)「THADRACK」などで堪能できます。
ホットな多田誠司(as)さんとクールな岡崎好朗(tp)のフロント2管は絶妙な組み合わせ。
川上さとみ(p)さんの強烈なタッチのピアノも印象に残ります。
高道晴久(b)さんはビ・バップの色濃いベーシストで田鹿さんとのコンビネーションは最高です。
バラードの(4)「GOODBYE」や(12)「ONLY TRUST YOUR HEART」が味わい深いか。
その他にも聴きどころが多く、モダン・ジャズのエッセンスが詰まっています。


ボーナス・トラックで2曲(11)、(12)が追加されていますが田鹿さんの心が動きが読み取れます。
ボツにするにはどうしても惜しいと思ったんでしょうね。
この気持はよく分かります。


(くつろぎ系)



(521) PRYSM FIVE / LIVE AT OPERA DE LYON

pierre de bethman(p), christophe wallmme(b), benjamin henoco(ds),
rosario giuliani(as), manu codjir(g)

2011/Plus Loin/


プリズム5の今作はあちこちで評判がいいので聴いてみました。
一聴して「なるほどなぁ〜」と思いましたよ。

演目は全てメンバーのオリジナルです。
中心はピアノ・トリオでアルト・サックスとギターが客演する形のカルテット演奏です。
(1)、(2)、(8)がアルト・カルテット、(3)がピアノ・トリオ、(4)、(5)、(6)、(7)はギター・カルテット。
ピエール・ド・ベスマンはアコースティック・ピアノとエレクトリック・ピアノの使い分けが巧み。

なんといってもアルトが客演する(1)と(8)が素晴らしいと思いました。
(1)テーマのあとのピアノレス・トリオからピアノが入ってくるタイミングはスリル満点。
強烈なドライブ感で疾走するアルト・サックス、地響きするドラム、
ブンブンと唸るベース、切れ味鋭いピアノが炸裂する。
熱い、熱い、熱いプレイが聴けました。
これがこのグループの神髄でしょうね。
特にアルトのロザリオ・ジュリアーニがいいです。
アルト・サックスにしては力強く重厚な音色が特徴で多彩な表現力を持っています。
ケニー・ギャレット(as)ばりに変幻自在に展開する才能は聴衆を魅了するに十分です。

このトリオの魅力は(3)で聴くことができます。
グイグイと突っ走るスピード感に圧倒されました。
ドラムスが前面に出てくるのは今風のトリオでバランスもいいです。

(4)〜(7)のギター・カルテットは浮揚感のあるコンテンポラリーなサウンドを持っています。
アルト・カルテットとは異質ですがこれはこれで面白く、一枚で二度楽しめるアルバムになっています。
ただ強烈なアルト・カルテットを聴いてしまうと間延びする感覚はまぬがれないかもしれません。

(まじめ系)




(520) ALAN ZIMMERMAN TRIO / TRIO

alan zimmerman(p), ezequiel dutil(b), carto brandan(ds)

2010/Pai/


今はなんとなくヨーロッパ系のピアノトリオに触手が動きません。
そんなわけでこのアルゼンチンのトリオを買って見ました。
アラン・ジマーマン(p)はもちろん初見です。
1曲目にサム・リバースの曲を取り上げているのが目を引きました。
加えてセロニアス・モンクやチャールス・ミンガスの曲となれば興味津々です。
斬新で凝ったピアノ・トリオが聴けるのではないかと思いました。

結果は予想通りでちょっと変で面白いピアノ・トリオが聴けました。
オリジナル以外の曲は原曲をイメージするとまったく違った展開になっていました。
ひねってねじれて変態的だけど美しいです。
ピアノ・トリオでミンガスの「直立猿人」を取り上げるのは珍しいと思います。
これってこんな曲だったっけ?・・・これを聴くだけでも価値があるかもしれませんよ。
雨の雫が落ちるような独特なタッチと前衛的なリズム感を持っています。
硬派で歯ごたえのあるピアノ・トリオ。
万人向けではないけれど秋の夜長にひっそりと聴くにはいいかもしれない。

(まじめ系)




(519) BRUCE BABAD QUINTET / A TRIBUTE TO PAUL DESMOND

bruce babad(as),
larry koonse(g), ed czach(p), luther hughes(b), steve barnes(ds)

2011/Primrose/


ポール・デスモンド(as)のトリビュート・アルバムです。
デスモンドの名前があれば何となく聴きたくなってしまいます。
ジャケット写真も似ているし・・・。
それに選曲も彼に縁のある名曲となればつい手が伸びてしまった。

ブルース・ババド(as)は初見、長い間スタジオ・ミュージシャンとして活躍しているようです。
当然、幅広い音楽性と確かな技量を持っていると思います。
メンバーで比較的知られているのはルーサー・ヒューズ(b)だけなのであともスタジオ系かも。

最初はデスモンドを意識し過ぎたところがあるかもしれないと思いました。
ところが何回か聴いているうちにそれだけではないことに気付いたんです。
自己のサウンドを持っている・・・案外に凝った部分もあって楽しめました。
ベストは(9)「DESMOND BLUE」で醸し出す雰囲気が素晴らしい。
(7)「TAKE FIVE」は中近東的アプローチで面白かったです。
(5)「THINGS AIN'T WHAT THEY USED TO BE」の4ビートに乗った演奏も良かった。
ババドは名手、ライブを感じさせないクールで落ち着いた仕上がりは実力の証しです。

メンバーもそれぞれが安定した力の持ち主のようで手慣れています。
聴き易く居心地の良いアルバムでした。

(くつろぎ系)




(518) THE BILL MCBIRNIE DUO & QUARTET / MERCY

bill mcbirnie(fl),
robi botos(p), pat collins(b), john summer(ds)

2010/Extreme Flute(Bill McBirnie)/


先日、久し振りにCDショップに行きました。
でも、あんまり触手の動くアルバムはありませんでした。
そんな中で選んだのがこのフルート作品です。
ビル・マクバーニーはカナダのフルート奏者でレーベルは彼自身のものです。

フルートのアルバムを買うのは珍しいですがこれが良かった。
解説を読むと(1)はヒューバート・ロウズ(fl)に(2)はジェレミー・ステイグ(fl)に捧げるとありました。
つまりマクバーニーのルーツはロウズとステイグにあるわけですね。
よどみないフレーズはロウズから、太くて鋭い音色はステイグから来ています。
まったくストレスを感じさせないフルート奏法は素晴らしい。

存分にフルートを楽しめる作品だと思います。
曲名の横にわざわざリズムを書いてくれているのも親切で嬉しかったです。
私は「Bebap」や「Medium Swing」を新鮮に聴きました。
フルートというとどうしてもラテン系の爽やかな音色をイメージしてしまうからです。

共演のロビ・ボトスはハンガリー出身のカナダのピアニストで名手です。
これがまたいいんだな・・・オーソドックスながら音に存在感があります。
女性ボーカリストのバックで活躍しているようですが今後注目されるかもしれません。
中ではソフィ・ミルマン(vo)が知られているかな。


(中間系)




(517) HIGH FIVE / SPLIT KICK

fabrizio bosso(tp, flh), daniele scannapieco(ts),
luca mannutza(p), tommaso scannapieco(b), lorenzo tucci(ds)

2010/Blue Note/


先日紹介した「プリズム5」を聴いた時に「ハイ・ファイブ」を思い出しました。
ファブリッツィオ・ボッソ(tp)とダニエル・スカナピエコ(ts)を中心にした「ハイ・ファイブ」は
イタリア発の新感覚のハード・バップ・グループで最初に聞いた時には興奮しました。

トランペット&サックスのフロント2管のクインテットはまさにモダン・ジャズの王道です。
チャーリー・パーカー(as)・クインテット、ジャズ・メッセンジャーズ、ホレス・シルバー(p)・クインテット、
リー・モーガン(tp)、ハンク・モブレイ(ts)、ドナルド・バード(tp)、ケニー・ドーハム(tp)など、みんなそうだった。
特にトランペット&テナー・サックスの組み合わせはマイルス・デイビス・クインテットに
代表される王道中の王道で私の一番好きな組み合わせです。

今作の狙いは明らかにホレス・シルバー・クインテットでファンキー・ムードがいっぱいでした。
シルバーやリー・モーガンの曲を取り上げていて気分はモダン・ジャズ全盛の50年代です。
同時にこのグループの特徴でもある明るくさわやかなイタリアン・サウンドを聴くことができます。
聴きやすく楽しいジャズ・アルバムであることは疑いありません。
全体的にアップ・テンポは良く、バラードの出来はいま一つのような気がしました。
収録時間の45分は短いかな。

ベストは断然ダニエル・スカナピエコのオリジナルの(7)「SAD DAY」です。
ここでのボッソが素晴らしい・・・見事にコントロールされたトランペット奏法を聴かせてくれました。
続くスカナピエコもジョン・コルトレーン(ts)ばりのモーダルな演奏で迫ってきます。
モーガンの(8)「SOMETHING CUTE」もネオ・バップ・グループにふさわしいサウンドで注目しました。

あと聴きどころになるのは今作のコンセプトを表現した(1)「SPLIT KICK」です。
この曲はアート・ブレイキーの「バードランドの夜」(53年)の1曲目に収録されたものです。
まさにハード・バップの夜明けを告げた「バードランドの夜」はジャズ・ファンなら必聴の名盤です。
クリフォード・ブラウン(tp)、ルー・ドナルドソン(as)、
ホレス・シルバー(p)、カーリー・ラッセル(b)、アート・ブレイキー(ds)
司会のピーウィー・マーケットの紹介から始まる演奏に興奮すること請け合いです。
まだの人は是非聴いてみて下さいね。

(中間系)




(516) MASAMICHI YANO / LIKE A LOVER
My Portrait Of Carmen McRae


矢野眞道(vo)
宮前幸弘(p)、増根哲也(.b,arr)、嶌田憲二(b)、岡田朋之(ds)、
伊勢秀一郎(tp)、岩谷耕資郎(g)

2011/Impex/


ライブ会場で矢野眞道(vo)さんから手渡しで入手しました。
まさに満を持した制作のようで矢野さんの特徴が良く出たアルバムだと思います。
男性のカーメン・マクレー(vo)に捧げる作品になっているのも珍しいんじゃないかな。
全14曲は選曲もよく考えられていて曲目によってメンバーも変わります。
(5)はベース、(9)はギター、(14)はピアノとのデュオです。
(1)「LIKE A LOVER」、(3)「INVITATION」、(5)「A SONG FOR YOU」、
(7)「DREAM OF LIFE」がお気に入り、大好きな曲の(6)「I'M GLAD THERE IS YOU」はボサノバ。

気心の知れた共演陣も好演していて、構成もいいし、まさに珠玉の名曲揃いです。
宮前幸弘さんのピアノ、岩谷耕資郎さんのギター、伊勢秀一郎さんのトランペットがいい味わい。
こういった感じのボーカルは私にとっても新鮮味に溢れていました。

男性ボーカルはノリや味が主流、彼のように語りかけるようにじっくりと歌い上げるタイプは少ないです。
ソフトでやさしく丁寧な歌唱法、歌の上手さは特筆もの、声量、声質共に申し分ありません。
矢野さんの歌には哀愁がある・・・これだけのボーカリストが知られていないのは惜しいです。
女性に比べて日本の男性ジャズ・ボーカル界はあまりに淋しいと思う。

(くつろぎ系)



(515) ROY AYERS QUARTET & QUINTET / WEST COAST VIBES

roy ayers(vibe), jack wilson(p),
curtis amy(ts,ss)(1,3,6,8),
bill plummer(b)(1,3,6,8,9), yony bazley(ds)(1,3,6,8,9),
vic gaskin(b)(2,4,5,7,10), kenny dennis(ds)(2,4,5,7,10)

2011(Rec/1963)/EMI Music/


ジャズ廉価盤シリーズは見たことも聴いたこともない珍しいアルバムが目白押しです。
ジャズ・ファンにとっては嬉しいけど迷うのも確か。
「安いんだから欲しいのは全部買っちゃえば・・・」との悪魔のささやきもある。
玉石混交だし、「まぁ、それはあまりに芸がなさ過ぎるよ」との声もあります。

今回、一番聴いてみたかったのがこれです。
ロイ・エアーズ(vib)の幻のデビュー盤の初CD化、エアーズが23歳の時、1963年録音です。
ユナイテッド・アーチスト原盤ではほとんど知られていないと思います。

やはりエアーズのルーツを探るには最適のアルバムでした。
ウエスト・コーストの爽やかでスマートな曲想とリズム感を持っていました。
もちろん、新鮮で瑞々しく、グルービーでモダンなプレイも聴かせてくれています。
彼が当時のコンテンポラリーなフュージョン感覚を持っていたのがよく分かります。

スタンダードにオリジナルを混じえての演奏は聴きどころも多いです。
ボサノバの(2)「DAYS OF WINE AND ROSES」、モダンな(4)「IT COULD HAPPEN TO YOU」、
バラードの(7)「
ROMEO」、モーダルな(1)「SOUND AND SENSE」、(7)「OUT OF SIGHT」など。
特にバラードの(9)「YOUNG AND FOOLISH」が素晴らしい。
これが23歳の演奏かと思いましたよ・・・当時のジャズ・プレイヤーの才能と早熟ぶりは驚かされます。
ジャック・ウィルソン(p)やカーテス・アミー(ts,ss)の参加も嬉しいです。
このサウンドは現在でも十分に通用する・・・未だに色褪せていません。
ヴァイブラフォン・ファンなら必携かも・・・。

(くつろぎ系)




(514) AARON DIEHL TRIO / LIVE AT THE PLAYERS

aaron diehl(p), david won(b), quincy davis(ds)
paul sikivie(b)(1,6), lawrence leathers(ds)(1,6)

2010//


アメリカの若手ピアニスト、アーロン・ディールのデビュー・アルバムです。
1985年オハイオ州生まれの現在26歳です。
17歳でウィントン・マルサリス(tp)に見出され、エリック・リード(p)やマーカス・ロバーツ(p)、
ハンク・ジョーンズ(p)等に師事し、2007年ジュリアード入学の逸材です。
これくらいの年齢が初アルバム制作には丁度いい年頃だと思います。
いきなりのデビュー盤がライブというのも驚きましたがそれだけ力がある証拠ですね。

当初はそれほどインパクトのあるピアノではないけれど聴けば聴くほど味わいが出てきます。
若いけれど落ち着いていて安定感、安心感があります。
(1)の自作のブルース・フィーリングと(2)「CONCEPTION」の導入が素晴らしい。
特にジョージ・シアリング(p)の名曲(2)「CONCEPTION」の新鮮な解釈にはガツンときた。
絶妙なスイング感と若さ溢れる連打は今作のベスト・プレイだと思います。
オリジナルの(3)TAG YOU'RE IT?」のスピード感やユーモアいっぱいの演奏も楽しい。
セロニアス・モンク(p)の2曲では(6)、スタンダードの(9)も聴きどころになります。

多彩なテクニックと表現力を持つ王道をいく主流派ピアニストが登場してきました。
他者とは一味違うフィーリングと雰囲気があります。
すでに自己の世界を持っているのではないか・・・今後の活躍は間違いないところ。


(中間系)




(513) TOKU / A BRAND-NEW BEGINNING

Toku(vo,flh)
小島良喜(p)、高水健二(el.b)、山木秀夫(ds)、小畑和彦(g)、
小沼ようすけ(g)、村上“ポンタ”秀一(ds)、秋田慎治(p)、藤井伸昭(ds)、
西脇辰弥(harm,org)、佐藤“ハチ”恭彦(b)、塩谷哲(p)他

2006/Sony/SACD


TOKUさんは2月のライブを聴いた時から何か新しいCDを聴いてみたいと思っていました。
新作の「スティービー・ワンダー集」を含め、色々と試聴しながら選んだのがこれです。
今作は2年ぶり、7枚目のアルバムだそうです。
全9曲はオリジナルが中心で俗にいうスタンダードはなしです。
フュージョン界の大御所ジョージ・デューク(key)とイーグルスの曲が入っているのがこだわりかな。
表題の「A Brand-New Begining」にも意気込みを感じました。

構成もよく考えられていると思います。
まずは(1)絶妙なミディアム・テンポで開幕〜(2)ジャズ度が高く、バックの好演が光るノリは最高
〜(3)ボサノバのリズムの流れにグーッときてしまいました。
都会的でスマートな曲想はフュージョン・テイストでポップス色が強くAORの雰囲気もあります。
特徴的な鼻に掛かる深い歌声とシブい歌唱法がマッチしていて実に居心地の良いアルバムです。
(4)以降もややインパクトに欠けるけれどより自然体、良曲が並んでいて大人しく聴き易いです。
ラスト(9)は塩谷哲(p)さんとのデュオで美しいバラードで閉じる。
癒し系アルバムとしてお勧めします。
TOKUさんは年齢と共に進化すると思うのでこれからが楽しみです。

それにしてもパソコンで聴けないSACDは不便だと思う。


(くつろぎ系)



(512) YAKOV OKUN TRIO / NEW YORK ENCOUNTER

yakov okun(p), ben street(b), billy drummond(ds)

2011/Criss Cross/


ロシア出身のヤコブ・オクン(p)は初見、ベン・ストリート(b)とビリー・ドラモンド(ds)の組み合わせ。
オリジナルが2曲にその他7曲の構成も良さそうだし「面白いかもしれない」と興味を引かれました。
ソニー・ロリンズ(ts)、ジョン・コルトレーン(ts)、ファッツ・ウォーラー(p)、デューク・エリントン(p)の曲、
オリジナルにはエリック・ドルフィ(as)の名前を見えます。
やはりオリジナルの (5)「ERIC DOLPHY'S TOMB」、(1)「PENT-UP CHAOS」、
(3)「SPILLIKINS」あたりが聴きどころになるかな。
ジャズ曲(4)「JITTERBUG WALTZ」や(8)「GIANT STEPS」のアプローチや展開にも注目しました。


感情を抑えた硬質なタッチが特徴的で感情移入が少ない分バラードはいまひとつだと思います。
テクニシャンで手数も多い、そういった意味では先進の感覚を持つ現代流行のピアニストの一人です。
独特のリズム・パターンを持っていて曲想は単純なほどいいような気がします。
今回はやや大人しめですがもっと弾けてしまえば面白い存在になります。

(中間系)




(511) ROZSNYOI PETER TRIO / AUTUMN WITCH

rozsnyoi peter(p), orban gyorgy(b), mohay andras(ds)
guests:koszegi imre(ds)(4,5), mohay andraz(vo)(9)

2010/PANKK/


ロズニョイ・ピーター(p)と読むのかな、これは珍しいハンガリー盤です。
オリジナルが5曲にその他4曲の構成で聴きなれたスタンダードが3曲ありました。
「間違いなくいいぞ」という予感があったけれどやはり大当たりでした。
まずはオリジナルの(1)、(2)でドキッとさせられ、スタンダードの(4)、(5)、(6)に魅せられる。
実に心地良いアルバムでこのピアノにいつまでも浸っていたいと思いました。

メロディアスでロマンティック、スイング感もあってどことなく懐かしい味がしました。
フレーズは新鮮だけどやさしく艶やかで色気もあります。
近年の若手ピアニストはどこかあからさまでこういうピアノ・トリオは少なくなったと思います。
特別テクニックをひけらかすこともなく、さりげなく自然体の演奏が一番の魅力です。
東欧ジャズの良さはこのような奥ゆかしさにあるのかもしれませんね。

但し、目先を変えたい意図は分かりけれどゲストは余計だったと思います。
(4)、(5)のドラムスにはいまひとつ繊細さが欲しいし、ヴォーカルは焦点がぼやけた感じがします。

ピアノ・トリオの好盤・・・ファン注目のレア盤になることは間違いないでしょうね。

(中間系)




(510) YOSHIKO SAITA / BON VOYAGE

斉田佳子(vo)
堀秀彰(p)、生沼邦夫(b)、吉岡大輔(ds)、
高瀬龍一(tp)、片岡雄三(tb)、秋山卓(as)、三木俊雄(ts)

2007/What's New Records/


今年になって斉田佳子(vo)さんは2回ほど聴く機会がありました。
続木徹(p)さんと清水秀子(vo)さんのライブにゲスト出演しました。
ナチュラルでストレートな唱法とソフトで深味のある歌声に好印象を持ちました。
一度ゆっくり聴いてみたいと思ってこのCDを購入しました。
実は発売された時にも買うかどうか迷った一枚だったんです。
バックの4管編成というのにも興味があったし・・・。

選曲もなかなかに凝っていて構成も面白いと思いました。
スタンダードも一味違う色んなタイプの歌が混じっていて個性的です。
バックはトリオや管入り、4管の分厚いハーモニーやアンサンブルにも魅力あります。
最近はボーカルのこういう編成も珍しいんじゃないかな。
私的ベストは(4)「A HOUSE IS NOT A HOME」で〜(5)「JEANNINE」の流れが素晴らしい
(8)「SO MANY STARS」も良かった。
その他にも聴きどころは色々ありました。
やっぱりこのふわっとした自然体がいいと思う。

(くつろぎ系)




(509) BENJAMIN DRAZEN QUARTET / INNER FLIGHTS

benjamin drazen(as,ss)
jon davis(p), carlo de rosa(b), eric mcpherson(ds)

2010/Posi-Tone Records/


ベンジャミン・ドラゼン(sax)は初見、ニューヨーク出身の38歳です。
ジョン・レノンに似たジャケットを見ながら手を出したり引っ込めたりしました。
迷いながらとりあえず買ってきましたが結果は大正解でした。
まず特徴的なのは繊細なアルト・サックスの音色でしょうか。
高く美しく新鮮で瑞々しい・・・居そうで居ない独特な音色で心に残ります。
若い頃のジャッキー・マクリーンの音色にコルトレーン以降のマクリーンの音楽性が近いかもしれません。
師匠格はデイブ・バーンズ(tp)、ジョージ・ガーゾーン(ts)、デイブ・リーブマン(ss)等々だそうです。
ガーゾーンにリーブマンならなんとなく分かってもらえると思います。

オリジナルが7曲とスタンダード2曲の内容で構成もいいです。
まずはコルトレーン・カルテットを彷彿とさせる(1)「Mr.TWILIGHT」で鷲掴みにされました。
モンク・テイストの(2)「MONKISH」、ベストは表題曲の(5)「INNER FLIGHTS」で音楽性も高い。
スタンダードでは(7)「THIS IS NEW」が秀逸でした。

共演のジョン・デイビスのピアノがいい、エリック・マクファーソンのドラムも聴きどころになります。
切れ味抜群のアルト・ワン・ホーン・カルテットが聴けました。
ポスト・ハード・バップでありながら新しい息吹を感じる好盤です。
このデビュー盤が良かったのでジョン・デイビスと共にまた聴いてみたいと思いました。

(中間系)




(508) RUFUS REID & THE OUT FRONT TRIO
/ HUES OF A DIFFERENT BLUE


rufus reid(b), steve allee(p), duduka da fonseca(ds),
guests: tonihno horta(g,vo),(3,4,11), bobby watson(as)(3,6,14)
freddie hendrix(tp)(3,8,14), jd allen(ts)(3,7,14)

2011/Motema/


ベテラン・ベーシスト、ルーファス・リードの新譜を買ってみました。
どうやら近年は西海岸を中心に活躍しているようです。
ルーファス・トリオというよりここで気になったのはゲストの方でした。
名手ボビー・ワトソン(as)とブラジルのトニーニョ・オルタ(g,vo)の名前を見つけました。
そして今作にはその二人とルーファスのデュオが収録されていました。
ボビーとの(6)「THESE FOOLISH THINGS」、トニーニョとの(4)「FRANCISCA」が素晴らしい。
若手のJD・アレン(ts)やフレディ・ヘンドリックス(tp)をフューチャーした(7)、(8)も良かった。
(11)「MOTHER AND CHILD」でもトニーニョの存在感は圧倒的です。

「The Out Front Trio」はブラジル&フュージョン風味を持つ爽やかトリオという感じがしました。
全体的にはゲストとの絡みが聴きどころになりますが構成がよく飽きさせません。

(中間系)




(507) KUNIMITSU INABA QUINTET / BASSIN'

稲葉國光(b)
中牟礼貞則(g)(1,2,3,4,5,6,8)、峰厚介(ts)(1,2,3,4,5,7)、
山本剛(p)(3,4,9,10)、岩崎佳子(p)(1,2,5,7,8)、関根英雄(ds)

2010/Little Pumpkin/


ジャズ・ファンなら稲葉國光さんの名前を知らない人はいないんじゃないかな。
それほどの名ベーシストの初めてのリーダー作だそうです。
「そうだったのか・・・」 私は信じられない思いがしました。
デビューしてから半世紀余り、すでに2枚や3枚のアルバムは出していて当然でしょう。
これも稲葉さんの人柄によるものか。
それこそ縁の下の力持ちというか、バックに徹していて表面に出ようとしません。
渡辺文男(ds)さんが「地味なんだよね」と話していました。
この二人がバックを務めたバリー・ハリス(p)の「ライブ・アット・DUG」の名盤もあります。
稲葉さんが共演した国内外有名ジャズ・ミュージシャンは数知れず、アン・バートン(vo)もお気に入り。
中牟礼貞則(g)さんとの付き合いは長く若い頃は一緒に住んで徹夜で練習したそうです。
それが(6)の「CONVERSATION #2」のデュオです。
アルバムの中に稲葉さんの指の写真がありますが角張った分厚い指をしています。
ある人が「稲葉さんの指は楽器の一部になっている」と言いました・・・けだし名言です。


選曲を見るとそのまま稲葉さんのジャズ人生が見えるようです。
曲名のYOUをジャズやベースに置き換えるとそんな思いが感じられます。
モダン・ジャズの名曲、ウェストンの(3)「HI-FLY」、モンクの(4)「WELL YOU NEEDN'T」がいい。
ここには抜群のスイング感を支えるベーシストがいます。
バラードなら(7)「A GHOST OF A CHANCE」が聴きどころになるかな。

中牟礼さん、峰厚介(ts)さん、山本剛(p)さんは日本を代表するプレイヤーです。
岩崎佳子(p)さんはラテン系を得意にするピアニストで稲葉さんとよく一緒に演奏しています。
関根英雄(ds)さんはグングンと突っ走るドラマーで見に行くと元気がもらえます。

やっぱり、ここには稲葉さんの人生が詰まっていました。

(中間系)



(506) ENRICO PIERANUNZI LATIN JAZZ QUINTET
/ LIVE AT BIRDLAND


enrico pieranunzi(p),
diego urcola(tp), yosvany terry(ts,ss), john patitucci(b), antonio sanchez(ds),

2010/Camjazz/


イタリアのエンリコ・ピエラヌンチはヨーロッパで一番有名なピアニストかも知れませんね。
幅広い音楽性を持ち、活動も長くて、そのキャリアは輝かしいものがあります。
コンスタントにアルバムを出していて、もちろん、日本での人気も高いです。
そのエンリコのラテンもの、ニューヨークに乗り込んでのライブ盤なら興味がありました。
全曲自身のオリジナルで、フロント2管は若手のディーゴ・ウルコラ(tp)とヨスバニー・テリー(ts)です。
加えてジョン・パティトゥッチ(b)とアントニオ・サンチェス(ds)のリズム・セクションに魅力があります。

エンリコはやっぱりバラードがいいと思いました。
トリオで演奏された(4)「ROSA DEL MARE」とクインテットでは(6)「MIRADAS」が最高。
各人のバラード・プレイが満喫できます。


(中間系)



(505) NAO TAKEUCHI DUO & TRIO / OBSIDIAN

竹内直(bcl)
中牟礼貞則(g)、山下洋輔(p)、井上陽介(b)、江藤良人(ds)

2010/What's New Records/


3月に竹内直さんのライブを聴きに行った時に入手しました。
その後であの大震災が起こって紹介するのが延び延びになりました。

これははっきりと面白いアルバムです。
バス・クラリネットだけの珍しくユニークな作品ということだけではありません。
オリジナル、ピアソラ、ショパン、エリントン、スタンダードetc・・・。
曲想も変化に富んでいて内容的にも充実した素晴らしい作品になりました。
それぞれがデュオかトリオで演奏されています。
こういうところもミュージシャン同士の対話を大事にする竹内さんのこだわりの一つだと思います。
バスクラ&ピアノ、ギター、ベース、ドラムスのデュオと色んな組み合わせのトリオが楽しめます。
どの曲もいいので目移りして選ぶのもむずかしいです。
多分、聴く人によって選ぶ曲がまったく違ってくるでしょうね。
私は(4)「I LET A SONG GO OUT OF MY HEART」、(6)「BEAUTIFUL LOVE」を選びました。

井上陽介(b)さんと江藤良人(ds)さんは竹内・カルテットのレギュラー・メンバーです。
ここに山下洋輔(p)さんと中牟礼貞則(g)さんが参加する興味深い顔合わせになりました。
竹内&中牟礼の組み合わせはライブでたまに聴くことがありますが中々面白いです。
ここでは(1)、(4)、(5)、(8)で聴けます。
一見異質なので緊張感が生じる・・・飄々とした二人のコラボレーションには味があります。
山下さんの変拍子、(7)「KURDISH DANCE」や(3)の展開も良かったです。
井上さんとの低音楽器同士のデュオ(2)、(6)、(10)にも注目しました。
(7)は江藤さんをフューチャーしたベースを加えたトリオです。

バス・クラだけのアルバムって今まで聴いたことがありません。
ジャズにおけるバス・クラリネットはエリック・ドルフィ(as)によって知られることになりました。
その音色は癒し系・・・人の声に近く、深く渋味のある音色は落ち着きます。
(注:バス・クラリネットはB♭調楽器、テナー・サックスやソプラノ・サックスと同じ)

(中間系)



(504) TOMONAO HARA QUARTET / HOT RED
&
KEIJI MATSUSHIMA QUARTET / THE SONG IS YOU


原朋直(tp), john hicks(p),
reggie workman(b), jimmy cobb(ds),
jimmy heath(ts)(10)

1997/Paddle Wheel/
松島啓之(tp), kenny barron(p),
david williams(b), billy drummond(ds)

1997/Alfa Jazz/

先日の大地震でCDの棚が崩れました。
整理していた時に見つけたのがこの2枚です。
共に日本人トランペッターのワン・ホーン・アルバムです。
気分的にもトランペットの明るくて輝かしい音色が聴きたかったのでちょうど良かった。
日本が誇る原朋直さんと松島啓之さん。
バックにはそれぞれジョン・ヒックス・トリオとケニー・バロン・トリオが共演しています。
当時よく聴いていた思い出があるけれど、なんか、最高の企画じゃないですか。
原さんの見事にコントロールされた表現力、松島さんの瑞々しいプレイ振りに注目。
それぞれの持ち味を生かした素晴らしい演奏が聴けます。
トランペットのワン・ホーンは意外に少なくて、アメリカのジャズ・メンを配したこの盤も貴重です。

(中間系)




(503) HELEN SUNG TRIO & QUARTET / GOING EXPRESS

helen sung(p), lonnie plaxico(b), eric harland(ds),
seamus blake(ts,ss)(1,2,3,4,7)

2010/Sunny Side/


ヘレン・スン(P)を聴くのは2枚目になります。
今作はライブ盤で前半がカルテット、後半がトリオ中心の構成になっています。
前回は↓のアルバムで「ドラ盤」にしました。

*HELEN SUNG TRIO / HELENISTIQUE
helen sung(p), derrick hodge(b), lewis nash(ds) 
2005/FRESH SOUND NEW TALENT/

前回の紹介で、「ルーツはやはりセロニアス・モンク&ビル・エバンスのミックスタイプで
現在のピアニストの主流派です」と書いています。
ジャケットを見るとこの5年位でだいぶ雰囲気が変わった感じがしますがどうなんでしょう。
順調に実力を伸ばして活動の場を広げているようですね。
ここではニューヨークの最先端のプレイヤーとの共演を実現して自己の音楽表現を強化しています。
シーマス・ブレイク(ts,ss)はジョシュア・レッドマンやマーク・ターナー系の新感覚サックス奏者ですが、
それほど強く個性を発揮させることもないのでサイドマンとして引っ張りだこになっています。
特にソプラノ・サックスの表現力に長足の進歩が認められました。
ロニー・プラキシコはジェイソン・モラン(p)やドン・バイロン(cl)と共演している一癖あるベーシスト。
エリック・ハーランドは近年最も注目されているドラマーですね。

強力な布陣を配して、予想通りに刺激的かつ先鋭的なジャズを聴かせてくれました。
これが彼女中心じゃなかったらどこに飛んで行くか分からない危うい布陣ともいえます。
やはり女性ならでは繊細さとやさしさを持っています。
(4)「HOPE SPRINGS ETERNALLY」はその雰囲気が出ていてとてもいい感じがしました。
ピアノ・トリオで演奏される(5)「IN WALKED BUD」も秀逸でクリアで瑞々しいモンクが聴けます。


(中間系)



(502) WOLFGANG MUTHSPIEL TRIO / DRUMFREE

wolfgang muthspiel(g), andy scherrer(sax), larry grenadier(b)

2010/Material Records/


オーストリアのウォルフガング・マスピール(g)の新譜です。
ドラムレスですが表題が「DRUMFREE」の意味するところを聴きたかった。
スイスのアンディ・シェラー(ts)にラリー・グレナディア(b)の組み合わせ。
全曲、ウォルフガングのオリジナルです。

ウォルフガングはカート・ローゼンウィンケルに代表される新感覚ギタリストの一人です。
共にゲイリー・バートン(vib)に見出されました・・・バートンの若手を見る力も大したもの。
アンディはコルトレーン派の熱いプレイヤーと思っていたのでこの落ち着いたプレイは見事で驚きました。
ラリーについては今さら語ることはありません・・・現在最も先進で実力のある売れっ子ベーシストです。

内容は超クールな感覚でECMサウンドをイメージしてもらえば分かり易いかな。
ウォルフガング&アンディ&ラリーの3人のインタープレイと醸し出す雰囲気が素晴らしい。
プレイヤー同士の息遣いを感じるし根っこにはスイング感もある。
じっくりと聴いていると「あ〜、ジャズっていいなぁ〜」と思いますよ。
私的ベストは(4)「DOUBLE BLUES」でしたがその他にも聴きどころは満載です。

(中間系)




(501) DOUG WEBB QUARTET / RENOVATIONS

doug webb(ts,ss), stanley clarke(b), gerry gibbs(ds),
joe bagg(p)(1,5,6), larry goldings(p)(2,4,8), mahesh balasooriya(p)(3,7)

2010/Posi-Tone Records/


ダグ・ウェブ(ts,ss)は初見、多分このレーベルも初めてです。
ジャケットには楽器もメンバーも書いていないので「何の人?」ってお店の人に聞いてしまいました。
こういうのは紛らわしくていけません。
でも裏には曲目が書いてあって、これがスタンダードばかりなので「まぁ〜問題ないか」と思いました。
家に帰って開封してみるとスタンリー・クラーク(b)やラリー・ゴールディングス(p)の名前がありました。
実際、「メンバーは誰なんだろう」と楽しみな気分もありましたよ。
ベースのスタンリー・クラークは上原ひろみさんと組んで今年のグラミー賞を取ったのは記憶に新しいところ。
ピアニストが3人聴けるのもお徳用です。

やはり西海岸の流れを踏襲しているのか、スマートな雰囲気を持っていると思います。
テナー・サックスが(1)、(4)、(5)、ソプラノ・サックスが(2)、(3)、(6)、(7)、(8)です。
テナーは(5)「YOU'VE CHANGED」、ソプラノは(2)「THEN I'LL BE TIRED OF YOU」がゆったりとした流れ、
ジャズ的にはポスト・バップの香りが強い(7)「BLUESETTE」と(8)「SLOW HOT WIND」が秀逸でした。

柔らかなビック・トーンの持ち主、オーソドックスで聴き易く、意外に拾い物のサックス・アルバムだと思います。
面白いはソプラノでこちらは身体に似合わぬ繊細なプレイを聴かせてくれました。

(中間系)




(500) MARIANE BITRAN & MAKIKO HIRABAYASHI QUINTET / GREY TO BLUE

mariane bitran(fl), makiko hirabayashi(p),
bob rockwell(ts,cl), eric olevik(b), morten lund(ds)

2008/Stunt Records/


フランスのフルート奏者、マリアン・ビトランとデンマーク在住の平林牧子(p)さんの双頭バンドです。
平林さんの名前はジャズ仲間からの情報で聞いていました。
バークリー卒業後そのままデンマークに根を下ろしたようですね。

聴いてみるとこれが思ったよりずっと良かったです。
オリジナルでこれだけ聴かせるアルバムも珍しいのではないかな。
何というのか・・・全体を覆うスイング感がとても心地良くて、これぞジャズを体感させてくれました。
(1)「LOOKING FOR HERBERT」を聴いた途端、期待が膨らみました。
平林さんとビトランとの音楽性はマッチして相性は抜群だと思います。
ラテン・フレーバーを持つフルートとオリエンタルなピアノのハーモニー・はエキゾチックで美しいです。
ボブ・ロックウェル(ts)とモーテン・ルンド(ds)の起用も魅力のひとつになりました。

オリジナルは曲想も豊かで新鮮で瑞々しく音使いにも個性が感じられます。
やはり表題曲の(5)「GREY TO BLUE」が一番の聴きどころになりました。
全体的にモーテン・ルンドの存在感が大きくあちこちで目立つドラミングを披露しています。
(8)「SNAPSHOT」ではそのルンド&ボブ、ルンド&平林のコラボレーションに注目しました。
色気を感じるボブ・ロックウェルの絡みがまたいいです。
平林さんのピアノ・トリオも聴いてみたくなりました。

(中間系)




(499) NNENNA FREELON / HOMEFREE

nnenna freelon(vo),
brandon mccune(p,fender rhodes), john brown(bc), kinah ayah(ds,g),
beverly botsford(per), ira wiggins(ts), scott sawyer(g),
pierce freelon(rap), ray codrington(fhn), timothy holley(cello),
wayne batchelor(b,elb)
2010/Concord/

ニーナ・フリーロン(vo)は 「NNENNA FREELON / LIVE」(2003/Concord)でガツンときました。
以来、しばらくの間さかのぼって追いかけて聴いていた時期があります。
聴いてもらえば一目瞭然ですがクセのある独特の歌い方は個性的です。
独自の表現方法を持っていて、多分、一度聴いたら忘れられないと思います。
かなり濃い目なので万人向けではないけれど私はこの雰囲気にドップリと浸かってしまいました。
結構聴く機会が多くて、最近の女性ボーカルではダイアナ・クラールと双璧になっています。
今作はニーナの特徴が良く出たスタンダード作品集です。
一味違ったスタンダード料理が楽しめるけど間違いなく好みは出ます。

(まじめ系)




(498) HAKUEI KIM TRIO / TRISONIGUE

ハクエイ・キム(P)、杉本智和(b)、大槻"KALTA"英宣(ds)

2011/Area Azzurr/


キム・ハクエイさんは最近の一般新聞紙上で最も話題になったジャズ・ピアニストです。
今作はメジャー・デビュー盤ということで取り上げられました。
もちろん、イケメンということも大いに関係していると思います。
女性の人気が上がるかな・・・ジャズ界が話題になることは嬉しいです。

評判も上々のようなので聴いてみたいと思いました。
自身のオリジナル6曲とスタンダード他が3曲の構成になっています。
ここで私は後者の3曲に注目しました。
オーネット・コールマン(as)の(5)「BIRD FOOD」は面白かったです。
ベース・ソロから始まってピアノ・ソロまで実に見事な展開になっています。
(8)「TAKE FIVE」もユニークで、こんな演奏を聴いた覚えはありません。
オリジナルでは最もストレートな感じの(3)「WHITE FOREST」に注目しました。
バラードはいまひとつ切れ味が欲しい気がしますが・・・。

ハクエイさんは強力な右手を持っています。
引っかくような動きとシングルトーンの響きが大きな個性と特徴です。
弾き過ぎずにクリアな音が出てきています。
これに左手の動きが加味されたらどういうことになるのか・・・大いに楽しみにしています。
杉本智和(b)さんはケイ・赤城・トリオや綾戸智絵さんでお馴染みの売れっ子ベーシストの一人。
大槻"KALTA"英宣(ds)さんは幅広い音楽性で精力的に活動中、多彩な才能の持ち主です。

(中間系)




(497) DAVE HOLLAND OCTET / PATHWAYS

dave holland(b),
antonio hart(as,fl), chris potter(ts,ss), gary smulyan(bs),
alex "sasha" sipiagin(tp,fhn), robin eubanks(tb),
steve nelson(vib,marimba), nate smith(ds)

2009/Dare2 Records/


デイブ・ホランド(b)の今作は昨年の「みんなのベスト3」に二人の方が推奨していました。
同傾向のアルバムは何枚か出ていますが私が聴くのは久し振りです。
この原型が出来たのはECM時代のデイブ・ホランド・クインテットです。
ホランド、スティーヴ・ネルソン(vib)、クリス・ポッター(ts)、ロビン・ユーバンクス(tb)が参加していました。

ホランドのサウンドの特徴はヴァイブを起用したピアノレスにあると思います。
これが実に効果的でポッター(ts)やゲイリー・スマリアン(bs)の重たいプレイを和らげています。
サウンドの広がりが幻想的で軽やかになりました。
このハーモニーの良さは(3)「SEA OF MARMARA」で聴くことができます。

このグループのライブは最高でしょうね。
見てみたいですが来日することはあるんだろうか。

(中間系)




(496) ABE RABADE TRIO / ZIGURAT

abe rabade(p), pablo martin caminero(b), bruno pedroso(ds)

2010/Nuba Records/


ポルトガル出身のアベ・ラバデ(p)を聴くのは2枚目になります。
*ABE RABADE TRIO / SIMETRIAS(2002)ですがまったく印象に残っていません。

今作は久し振りにCDショップで手が伸びたピアノ・トリオでした。
渾身のジャケットに惹かれた感じがします。
1曲を除いては全て自身のオリジナルです。
これは良かった・・ラバデの代表作になるのは間違いないと思います。
ヨーロッパの古い伝統的なスタイルにアメリカの先進の新しい感覚が加わっています。
表題曲(1)「ZIGURAT」の叙情感溢れる表現力、(3)「XIKET」における疾走感、
(5)「7 CONTRA 5」における刺激的な展開といったところが聴きどころになります。
ヨーロッパ・ピアノ・ファンなら是非聴いてみて欲しいです。
これからのヨーロッパのピアノ・トリオの行き方を暗示させるアルバムかもしれません。


(中間系)




(495) MAGNUS HJORTH TRIO / PLASTIC MOON

magnus hjorth(p), petter eldh(b), kazumi ikenaga(ds)

2010/Cloud/


マグナス・ヨルト・トリオの新譜です。
マグナス・ヨルト(p)とペーター・エルドはデンマークの新進気鋭のジャズ・マンです。
この二人に日本の池長一美(ds)を配したトリオはすでに2度の来日公演を果たしています。
その時のライブ盤で昨年出た「SOMEDAY.Live in Japan」は好評を博しました。

そのトリオの第二弾はじっくりと取り組んだスタジオ録音盤です。
音が流れた途端、その美しいピアノ音に驚かされると思います。
クリアでピュアなピアノの音が流れてきて、どこまでも美しく透明な世界が広がっていました。
北欧独特の静謐で冷徹な雰囲気も持っています。
ただトリオのまとまりはいいけれどスリルやサスペンスにはやや欠けたかもしれません。
マグナス&ペーターの最大の魅力は形にとらわれない自由奔放さにあると思っています。

やはりオリジナルだけでは厳しかったと思うので2曲のスタンダードを入れた構成は良かったです。
特に(4)「シャイニー・ストッキングス」には新たな息吹が吹き込まれたと思います。
カウント・ベイシー楽団のイメージが強すぎたので、こんなにロマンチックな曲だったのかと思いました。
オリジナルでは(6)「HOT CORNERが大のお気に入りです。
池長さんのパーカッシブなドラムとマグナスのリズムの絶妙な絡み合いが聴きどころになります。
(7)「LEIA」はテーマが印象的、美しさの中に力強さが感じられる演奏でピーターのベース・ソロも秀逸です。
たしかライブでもやったような気がするのでこなれていました。

今作はデンマークのスタント・レーベルから世界に発信されたと聞いています。
日本人プロデューサーが見出したこのトリオが世界に羽ばたいてくれると嬉しいですね。

(中間系)




(494) ERIC HARLAND QUINTET / VOYAGER Live By Night

eric harland(ds),
walter smith III(ts), julian lage(g), taylor eigsti(p), harish raghaven(b)

2010/Space Time/


注目のドラマー、エリック・ハーランドの初リーダー・アルバムです。
バックも有能な若手で固めて自分達の音楽を発信しています。
まずは一番の聴きどころはパワー・・・力強さに溢れる演奏にあると思います。
聴き手にも体力が要るのでロートルにはややきつかった。

2曲を除いては全てハーランドのオリジナルで占められています。
(1)「TREACHERYFOR」でガツンときた・・・一筋縄ではいかないサウンドが詰まっていました。
面白かったのは(10)〜(13)「GET YOUR HOPES UP PART」の組曲です。
「1」はジュリアン・レイジのギター、「2」はウォルター・スミスのテナー、
「3」はテイラー・エイグスティのピアノ、「4」にはハーランドのドラムスがフューチャーされています。
サム・リバース(ts)の曲、(9)「CYCLIC EPISODE」が入っているのも特徴的かな。
サム・リバースはマイルス・デイビス・クインテットに参加したこともある鬼才です。
その後はフリーの道に進みましたが重要なジャズマンの一人だと思っています。
そう考えるとフリーとのはざ間で揺れるハーランドら若手の心境が垣間見えるようです。

迫力十分の新感覚現在進行形ジャズが聴けます。
ただ、ドラム・ソロには馴染めなかったけど・・・。

(まじめ系)




(493) KEITH JARRETT & CHARLIE HADEN / JASMINE

keith jarrett(p), charlie haden(b)

2010/ECM/


2011年の最初の愛聴盤はキース・ジャレット&チャーリーヘイデンになりました。
今作は昨年の「みんなのベスト3」に4人の方が推奨していました。
4人がダブるというのは初めてじゃないかと思います。

発売時には賛否両論が渦巻いていたような記憶があります。
それで私は躊躇した部分がありました。
キース・ジャレットのイメージをあんまり変えたくない思いがあったんです。
たしかにここでのキースには、ほのかな土の香りがしました。
キースの弟にスコット・ジャレットというカントリー&フォーク系のギタリストがいました。
キースも同じような環境と感性を持ったことは容易に想像できます。
厳しさとやさしさは表裏一体でどちらを重要視するかはその時の気分に左右されるかもしれませんね。

聴いてみると”さすが〜”としか言いようがなかったです。
キースとヘイデンの醸し出す雰囲気がなんともふくよかです。
リラックスしていて気負いがなく、まったくの自然体で演奏していました。
「JASMINE」の題名を見た時に私は即「ジャスミン茶」をイメージしました。
お茶にジャスミンを混ぜてお湯を注ぐと芳香が漂いますね。
このアルバムもそんな感じでやさしく包み込むような世界が広がっています。

私的ベストは(5)「Into-I'M GONNA LAUGH YOU RIGHT OUT OF MY LIFE」で、
続く(6)「BODY AND SOUL」、珍しい(3)「NO MOON AT ALL」も良かった。
抜群のリズム感とテンポのキープ力が素晴らしい。
特筆すべきは上質なジャズミン茶のように音色もまろやかなところでしょうか。


(くつろぎ系)




(492) GIOVANNI MIRABASSI TRIO / LIVE @THE BLUE NOTE TOKYO

giovanni mirabassi(p), gianluca renz(b), leon parker(ds),

2010/DISCOGRAPH/


ジョバンニ・ミラバッシ(p)の新譜は東京BNにおけるライブ盤になりました。
ジャケット見ると日本盤のようですがフランス盤です。
違うのはスタンダードが1曲もなくて全てオリジナルで占められていることです。
これは日本盤ならとても考えられないことでしょうね。
ミラバッシの圧倒的なパフォーマンスにはファンも多いと思います。
美しく、流麗、華麗という表現がぴったりの抜群のテクニックの持ち主です。
加えて強力なタッチとスイング感とを兼ね備えているのはほぼ完璧に近い。
鬼に金棒と思いきや、これがある意味欠点になるからジャズはむずかしいです。
というか、私には聴くほうのわがまま(ないのもねだりの天邪鬼)が出てしまいます。
ツボを心得ているというか手慣れているというか。
変な表現なんだけどミラバッシは上手すぎると思う・・・上手すぎて隙がない。
ジャズの魅力の一つに陰影や落差があるけれどやや一本調子に聞える時があります。

ここではレオン・パーカー(ds)の存在が決め手だと思います。
トリオにおいてもドラマーが前面に出てくるのは世界的な流れになっていますね。
押し出しが強く合わせるのも上手い、かつ、波がうねるようなリズム感を持っている。
特に新感覚のドラマーにはこの傾向が強いです。
レオンも新しいタイプのドラマーなのでそれが見事に成功しました。
今作はミラバッシとレオンのコラボレーションが魅力の一枚です。
(4)「HERE'S THE CAPTAIN」のドラムスが文句なしに素晴らしい。

(中間系)




(491) FRED HERSCH TRIO / WHIRL

fred hersch(p), john hebert(b), eric mcpherson(ds)
2010/Palmetto/


フレッド・ハーシュ(p)を聴くのも久し振りです。
独特の感性と味を持っているので面白いピアニストだと思います。
CDの収録曲からそのプレイヤーのこだわりを予想することができますね。
(3)「BLUE MIDNIGHT」はビル・エバンス・トリオのポール・モチアン(ds)の曲、
(9)「Mrs.PARKER OF K.C」は鬼才ジャッキー・バイヤード(p)の曲を選んでいます。
これらの選曲からもハーシュが一筋縄ではいかないのが分かると思います。
静謐かつ清冽で叙情感溢れるフレーズが素晴らしいです。
スタンダードの(1)「YOU'RE MY EVERYTHING」のアプローチも良かった。

最近、ピアノとドラムスの絡みに興味が向いていますがピッタリの一枚でした。
ハーシュ&マクファーソン・・・随所で聴かせるインタープレイが聴きどころになりました。
ありきたりのピアノ・トリオではない、聴くほどに味が出るスルメ盤です。

(中間系)




(490) KRISTER ANDERSSON QUARTET / LIVE

krister andersson(ts,cl),
bo skuba(p), filip augustsson(b), ali djeridi(ds),

2010/DO MUSIC/


クリスター・アンダーソン(ts)は初見です。
久し振りにCDショップに行った時にスーッと手が伸びました。
サングラス姿のシャレたおじさんに・・・「おい!こっち、こっち」と呼ばれた。
でも、こういうのがけっこう当るものなのです。

聴いてもらえばすぐに分かりますがルーツはジョン・コルトレーン(ts)です。
プレスティジ時代の初期のコルトレーンの雰囲気を色濃く持っていました。
コルトレーンの名作「バラード」の影響もあります。
もう一人はジョー・ヘンダーソン(ts)で(7)「SERENITY」を取り上げています。
野太く男性的なトーンには暖か味があって甘くも辛くもなく、ちょっと苦味がある感じかな。
ちょうどいい案配な味加減・・・リラックスしてオーソドックスで聴いていてホッとするアルバムです。
クリスターは最初クラリネット奏者としてデビューしたようでこちらも達者です。
共演者では同じく初見のボ・スクバ(p)ですがこれも中々に味のある名手で掘り出しものでした。
スウェーデン・ジャズ・シーンの奥深さを感じます。
ライブ盤なので収録時間は74分と長いです。

(中間系)




(489) YARON HERMAN TRIO / FOLLOW THE WHITE RABBIT

yaron herman(p), chris tordini(b), tommy crane(ds),

2010/ACT/


あちこちでこのジャケットを見るたびに欲しいと思いました。
動物ジャケはどれも面白いですがこのうさぎもなんとも愛嬌がありますね。
これって写真、それともCGなのかな、最近はよく判断がつきません。

ヤロン・ヘルマン(p)は初見、イスラエル出身のパリ在住だそうです。
ヨーロッパ・ピアノの伝統的な静謐さを感じさせながらも躍動感やスピード感を持ち合わせています。
ポップスやロックを吸収して多様なリズム変化にも対応できる技量もあります。
現在のヨーロッパの新世代ピアニストはこういった器用さを追求しているのかもしれませんね。
全体的にピアノ&ドラムスのコンビネーションが素晴らしいです。
ドラムスが前面に出てくるのは世界的な流れになっていると思います。
(3)「TRYLON」、(6)「THE MOUNTAIN IN G MINOR」の展開の面白さ。
(5)「EIN GEDI」や(10)「BABY MINE」の美しさも特筆ものです。
ここにはヤロン・ヘルマンの音楽性が全て詰まっているともいえます。

但し、構成にはもう一工夫あってもいいと思いました。
14曲で60分というのはどうか・・・先に収録時間ありきだったかもしれません。
(11)以降は無理に詰め込んだ気がしてならない・・・後半は明らかにだれました。
内容がいいだけに10曲で50分でも十分だったと思う。

(中間系)




(488) THE MOST(Seiji Tada Quartet) / LUMINESCENCE

多田誠司(as,ss)、
片倉真由子(p)、上村信(b)、大坂昌彦(ds)

2010/Studio TLive Rec/


ザ・モスト率いる多田誠司さんの新譜です。
注目の片倉真由子(p)さんの参加にも興味ありました。
演目は全てメンバーのオリジナルで占められていて意欲作です。
多田さんは長らく日野皓正・クインテットで活躍していたのはご承知の通りです。
ここでも鋭く突き抜ける音を聞かせてくれました。
最近はスマートでクールな奏法が目立つのでこの力強い音色には存在感があります。
片倉さんの物怖じしない堂々たるプレイぶりが一際目立ちました。
時に寄り添うように時に突っぱねるようなバッキングが光ります。
繊細でやわらかなタッチ、絶妙のタイミングとテンポを持つピアノには痺れた。
特に自作の(6)「B'S DANCE」のピアノ・ソロは絶品です。
上村信(b)さんと大坂昌彦
(ds)さんのリズムは語るまでもないでしょう。
今作は片倉さんの起用が大当たりでお互いに触発しあって面白い作品になりました。
硬派で聴き応えのある曲が並んでいます。

(まじめ系)




(487) CHIHIRO YAMANAKA TRIO / FOREVER

chihiro yamanaka(p), ben williams(b), kendrick scott(ds),

2010/Verve/


山中千尋さんを聴くのは2004年の「Madrigal」以来3枚目になります。
その間2回ほどライブを聴く機会も得ました。
それにしてもメジャー・レーベルからコンスタントにリリースしているのは立派ですね。
彼女の人気の証しだと思います。
今作は筒美京平さんや松風鉱一さんの曲などが含まれ、中々に凝った選曲でユニークです。

山中さんはテクニシャンで流麗華麗ですがやや弾き過ぎの感があります。
ライブでもそれを感じましたがいかに音数を抑えるかが彼女の課題になるのではないかな。
弾き過ぎればどうしても一音一音が軽くなります。
もっとも音数の少ない(6)「GOOD MORNING HEARTACHE」の瑞々しさはどうだろう。
切れ味の良さからラテン系の(7)「SAUDADE E CARINHO」も光る。
ベスト・トラックはイエロー・ジャケッツのラッセル・フェランテ(key)による(10)「AVANCE」でした。
この展開が素晴らしく山中さんの本領が発揮されていると思います。


(中間系)




(486) EDEN ATWOOD / LIKE SOMEONE IN LOVE

eden atwood(vo), david morgenroth(p), chris colangelo(b), joe labarbera(ds),
kendall kay(ds), azar lawrence(ts)(2,4,6,7)

2010/Ssj/


イーデン・アトウッドの今作はライブを聴いたあとに初めて聴きました。
だいぶ深く歌い込むようになったと思います。
感情豊かに深く歌うのは実力派の歌手が歩む道ですね。
スタンダードを色々変えて歌いたくなる・・・イーデンもそんな感じになってきました。
スタンダード集ですがモーゲンロスのアレンジが効いていて一味違う仕上がりになっています。
基本にはオーソドックスなスタイルがあるのでちょうどいい案配かもしれません。
どうだろう?・・・ライブで聴くのとそれほど差がないような感じです。
それだけこの録音がリラックスしていて上手くいったんだと思います。
バックに珍しいエイゾー・ローレンス(ts)が参加していました。
エイゾーはコルトレーン派の濃いサックス奏者ですがここではイーデンとのバランスもいいです。
そのエイゾーが参加した(2)、(4)、(6)、(7)が聴きどころになりました。
(6)「My Romance」をこれほど力強く歌い上げるのも珍しいし(7)「I Wish You Love」も良かった

(中間系)




(485) LARS JANSSON TRIO / WHAT'S NEW

lars jansson(p), thomas fonnesbaek(b), paul svanberg(ds)

2010/Spice of Life/


ラーシュ・ヤンソン・トリオのスタンダード作品集です。
圧倒的な素晴らしいライブを聴いた後でのCD評価はむずかしいところがあります。
CDとライブは別ものなんですがどうしても比較してしまうからです。
オリジナルが3曲にスタンダードが7曲、選曲も考えられていて良い構成だと思います。
お孫さんに書いた(3)「HILDA SMILES」は短かくも気持がこもっていて印象的でした。
オリジナルでは(10)「LATOUR」も聴きどころになります。
スタンダードでは軽妙な味を出した(9)「COME RAIN OR COME SHINE」が白眉の1曲か。


(中間系)




(484) CELSO FONSECA / SLOW MOTION BOSSA NOVA

celso fonseca(vo,g) / ronaldo bastos

2008/Bomba/


ブラジルのセルソ・フォンセカ(vo,g)はジャズ友から教えてもらいました。
この夏は夏風邪を引いて部屋で休んでいることも多かった。
そんな時に一番聴いたCDがこの作品でした。
やわらかいサウンドとやさしい歌声は爽やかな風を運んでくるようです。
これには癒されたなぁ〜
まさに表題にもなっている「SLOW MOTION BOSSA NOVA」の世界です。
フォンセカはこの夏来日してジョイス(vo,g)とジョイント・コンサートをしました。
ライブに行った人から「素晴らしかった
」とのレポートを聞いています。

ただ、このジャケットは無感動で興冷めです。
まったく内容とマッチしていないのでどんな意図があるのか。
もったいないと思いました。


(くつろぎ系)




(483) MANABU OHISHI TRIO / WISH

大石学(p)、 
jean-phillippe viret(b)、 simon goubert(ds)

2010/Atelier Sawano/


大石学(p)さんがフランスに乗り込んで作った新譜です。
自身のオリジナルが5曲にスタンダード2曲の構成です。
1曲づつが比較的長いのでじっくりとそのピアノ・プレイを聴くことができました。
大石さんには独特の感性があって独自の世界を持っています。
美しく、力強く、深遠な「大石学の世界」はまた抜群のリズム感が素晴らしい。
宇宙的空間が広がる演奏を聞かせてくれます。
このスタイルは何処に行っても変わりません。
物語性があって、主張があって、メッセージがこちらに伝わってくるようです。
これはオリジナルに強く感じますがスタンダードにも新たな息吹を吹き込んでくれました。

CDも良いけれど大石さんの真髄はライブにあります。
是非、足を運んでみて下さい。

(中間系)




(482) KARL OLANDERSSON QUARTET / PLAYS STANDARDS

karl olandersson(tp,vo),
daniel tillingi(p), martin sjostedt(b), mattias puttonen(ds)

2010/Stockholm Jazz/


スウェーデンの新人トランペッターはカール・オランダーソンと読めばいいのかな。
トランペットのスタンダード作品集となれば見逃がせないところです。
ジャケットを見れば一目瞭然、狙いも雰囲気もやっぱりチェット・ベイカーでしょうね。
陰影のあるクールなチェットに比べてスマートで明るい響きを持っています。
(6)「JUST FRIENDS」はベースとのデュオで一番の聴きどころになりました。
(9)「
IT MIGHT AS WELL BE SPRING」、(12)「I CAN'T GET STARTED」はピアノとのデュオ。
これも良かったです。
最後は追加収録した感じでボツにするのが惜しかった・・・心の動きが分かるようです。
歌は(8)「IF I WERE A BELL」で聴けますがこれはご愛嬌というところか。
共演者ではダニール・ティリングがピアノが目立ちました。


いずれにせよ、トランペッターは層が薄いので新人トランペッターを聴くのは嬉しいものです。
フレディ・ハバード以降、ウィントン・マルサリスはちょっと毛色が違うしロイ・ハーグローブも力不足か。
世界を引っ張る強力なトランペッターの登場が待ち遠しいです。

(くつろぎ系)




(481) SATOMI KAWAKAMI TRIO / DIAMONDS

河上さとみ(p)、 池田潔(b)、 田鹿雅裕(ds)

2010/M&I/


河上さとみ(p)さんの新譜をライブ・ハウスで入手しました。
オリジナルが9曲にその他3曲の構成です。
それもケニー・ドーハム(tp)、ジミー・ヒース(ts)、ベニー・ゴルソン(ts)が選曲されました。
三者共に作曲の名手でバリバリのハード・バッパーですね。
これだけでも河上さんの目指すスタイルが分かると思います。
池田潔(b)さん、田鹿雅裕(ds)さんも好演していて絶好のピアノ・トリオ作品になっています。
私は一曲目の出だしを聴いただけでたまげました。
ライブで聴いた時とまったくイメージが違ったからです。
力強く、鋭いタッチ、スピード感、溢れ出るフレーズ、美しい音色・・・実にカッコ良かった。
ライブはカルテット編成のバックだったけどクールで繊細で研ぎ澄まされた感覚を感じました。
どちらが本物なのか、あるいは両方を兼ね備えているのか。
近々自己のトリオを聴いてみたいと思っています。

(中間系)